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第33話 寒く、冷たい雨
翌日、時雨はせめて少しでも紬の体にかかる負担が軽くなるように病院を探した。
評判のいいそこに、嫌がる紬を連れていき薬を処方してもらう。
そして──二人の番関係が無くなった。
□
時雨は全ての重荷が無くなったと思えて、心が楽だった。
それから仕事は順調で、次の機会に昇進することも出来た。
が、何処か虚しさが拭えない。
昇進したと言えばきっと祝ってくれる筈の番が居なくなった。
家に帰れば「ただいま」と言ってくれる声も随分と長く聞いていない。
それに気付いた時雨は「何してんだろ、俺。」と広い部屋で一人呟く。
ふと我に返った様な気がした。
フラフラっとスマホを手に取り、まだ消していない元番の名前を見つける。
「……紬」
今、どうしているだろうか。
体調はいいのだろうか。
あの時のことを謝りたい。
今になって漸く、自分が紬に何をしたのかを理解する。
そして時雨は考える間もなくメッセージを打っていた。
『あの時は酷い事をしてごめんなさい。連絡が欲しい。』
これを見てくれるかは知らない、そもそももし連絡が取れたとして、自分がどうしたいのかもわからない。
けど手が止まらなかった。
やり直したい訳では無い。
あんなことをしたんだ、やり直せる訳が無い。
ただ、謝りたい気持ちがあった。
それから少しして、紬から返事が来た。
心臓が大きな音を立てている。こんなに緊張するのは初めてのことだ。
メッセージを開けると、どうやら紬は会ってくれるらしかった。
時雨はホッとして、場所と時間を送る。
素直に謝る気持ちしか無かった。
そして、紬の体調が少しでも良いことを祈っていた。
□
約束の日。
時雨は紬と再開し、彼が今自分との子を身篭っていると初めて知った。
最後に過した発情期でできたらしい。
恭介によって知らされた事実に、本当になんて酷いことをしたんだと思う。
自分の気持ちひとつで、こんなにも紬を振り回して、と。
だから「もう二度と会わない」と言う紬の言葉に傷つく資格も無いのはわかってる。
けれど、今更後悔している。
もっとちゃんと話をすればよかった。
もっと紬のことを考えればよかった。
会社での居づらさなんて、そんなものきっとどうにでもなったのに。
たった一度頭を下げたからといって許されることでは無い。
帰宅して、広い部屋で一人、幸せだった頃のことを思い出す。
大切だった親友が、愛していた番が、自分に笑いかけてくれていたあの頃の記憶。
もう戻れないあの日に、時雨は静かに涙を流した。
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