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第34話 すなお

 発情期の前後、大抵のΩは情緒不安定になることが多い。  紬もそうだった。  何ともないのに泣けてきたり、いつもならどうも思わないことに対してムカッとしてしまったり。  気持ちの浮き沈みが激しいと疲れてしまって、安心できる香りを求め番の恭介に抱きつく。 「発情期前かな」 「うん……そうだと思う……」 「疲れただろ。今日は早く寝ないとね」 「……ごめんね」  泣いたり、怒ったり、鬱陶しいよね。  そんな気持ちで紬が謝れば、恭介は「何言ってるの」と苦笑して紬の頭を優しく撫でた。 「普段我儘の一つも言わないんだから、こういう時は素直に甘えておいで。」 「……あの」 「ん?」 「……す、好き。ありがとう」  恭介はたまらず胸を押さえた。  なんという可愛さか。  素直に甘えておいでとは言ったが、こんなふうに真っ直ぐ『好き』を貰えるとは思っていなかった。 「俺もだよ。さあ、お風呂に入ったら一緒に寝ようか。」 「うん」 「抑制剤は飲んでおく?」  Ωの発情期はΩ自身にとってもとても体力を消耗するので、番が出来たあとも発情期の度に抑制剤を飲んで症状を抑えるΩも多い。 「えっと……の、飲まなくても、いい……?」 「俺はいいけど、体は辛くない?」 「……あの……気持ちいいの、好きだから……」  紬は顔を真っ赤に染め、モジモジしながら言う。  なるほど。発情しきった状態でするセックスが紬は好きらしい。  恭介は目尻をデロデロに下げて笑っていた。  自分の番は気持ちいいのが好きなんだと再確認したので。 「シたくなったらいつでも言ってね」 「ぁ……そ、そういうこと、言われるの、恥ずかしい……」 「……可愛い」  恭介の胸に顔を埋めるようにして隠す紬に、恭介はもう口角の下げ方すら分からなかった。 ■  それから少ししてやってきた発情期。  紬の好きな気持ちいいことをし、恭介は蕩けた番の様子に癒される。 「ずっと、こうしてたいな……」  発情期には波がある。  なので何度目か繋がったあと、少し熱の落ち着いた時に肌をくっ付けて休んでいると、紬がそう呟いて恭介の背中に腕を回した。  恭介はあまりに幸せで、ついポロッと涙を零す。  紬にこれほど求められることが嬉しかった。 「愛してるよ」  気づけば伝えていた言葉に、紬は花が咲いたように微笑んで。 「俺も、愛してます」  二人の唇がそっと重なった。

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