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第41話 ひより

 紬と恭介と話をしてから暫く。  あの日から自身を責める日々が続いている時雨は、顔色も暗く覇気もない。  自宅は片付けの仕方も忘れたかのように色んな物が散乱している。  食事もあまり喉を通らず、ただ紬とこれからも会うことの無い子供に対しての罪悪感で潰れてしまいそうだった。 「……いや、これはさすがにまずいか」  ふと広かった家が物で狭く感じた。  まだ足の踏み場はあるが、所謂汚部屋状態の家。  誰かがここに来た時、これでは上がってもらうことすらできない。 「……誰が来るって言うんだよ」  自虐気味に笑うけれど、それは虚しさしか産まなくて。  時雨は大きな溜息を吐き、さてどうするかと惨状を見渡した。  これはどうにも、自分一人では片付けられそうにない。  少し悩んだ結果、時雨は片付け代行サービスを利用することにして、早速評判のいいところをネットで検索し、仕事が休みの日にお願いすることにした。  何やら要望を入れる欄があったのだが、特に何を記入することもなく予約を確定する。  その日まではこの汚部屋でどうにか過ごそう。  時雨は天井を眺めながら、部屋が綺麗になるのと同時に気持ちも整理出来たらな、なんてことを考えていた。 ■  予約日当日。  朝からボンヤリしているとピンポーンと鳴ったインターホン。  のっそり歩いて玄関のドアを開けると、少しチャラそうな男性が一人立っている。 「初めまして、片付け代行サービスの者です。仙波と申します。よろしくお願いします」 「ぁ……市谷です。よろしくお願いします」  明るめの茶髪が肩まで伸びている。  時雨は仙波を部屋に上げたが、今更少し恥ずかしくなって。 「すみません。本当散らかってて……。一人じゃどうにもならなくて。」 「いえいえ。片付けがいがあります」  ニコニコ微笑む仙波に時雨はホッとする。  見た目は置いておいて、話しやすい雰囲気が時雨にとっては大変有難かった。 「どこから片付けましょうか。あ、あとこれは触らないでほしいというものがあれば事前に教えていただけると助かります。」 「んー……特に無い、かな……?」 「えっと……思い出の物とか……」  そう聞かれたのだが、時雨にはやはり思い浮かぶものがない。  何も答えないでいると、仙波は少し長めの髪をひとつに結ぶ。 「とりあえず、大切そうな物とかは触る前に聞きますね。」 「すみません。ありがとうございます」 「いえ。じゃあまずこの辺りから始めます」 「お願いします」  時雨はペコっと頭を下げる。  久しぶりに自分以外が立てる音が聞こえて、うっすらと紬の記憶が頭の中に蘇った。
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