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第42話 ひより
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一時間もすれば、部屋は綺麗になっていた。
床に散らばっていたものは無くなり、以前の家が戻ってきたみたいだ。
「ここはこんな感じですかね。」
「ありがとうございます」
「いえいえ!さあ次行きますよー」
仙波は明るくそう言って、次の部屋を片付けていく。
時雨は見ているだけだったのだが、綺麗になっていく家に気持ちが整理されていくような気分で不思議な感覚だった。
ある程度片付いた頃、ちょうど時間がやって来て仙波は髪を解く。
そして利用料金の話になると、テーブルの席に向かい合って座った。
「今回はこちらのコースをご利用いただいたので……お値段はこちらになります。うちはお振込みしていただく形なので、あとから請求書が届きます。そちらからお手続きお願いします。」
そう言って渡された紙を見て、時雨はアレ、と首を傾げる。
「あの……これ、ネットで見たより随分料金が安いんですけど……」
「あ……えっと、それは……」
「?」
仙波は言いにくそうに視線を逸らすと、無理矢理作ったような笑顔を見せる。
「すみません。市谷さんは特にご要望等が無かったので……オメガである僕が担当させていただきました。なのでそのお値段です。」
「……え?」
「……オメガ料金です。初めにお伝えしなくてすみません。」
ガバッと頭を下げた仙波に、時雨は目を見開く。
そして慌てて頭を上げさせた。
「あの、性別とかどうでもいいので……とにかく正規の料金を払います。あ、会社にバレないように秘密で差額持って行ってください」
「え……」
「こんなに綺麗にしてもらったのに、性別のせいで料金が安くなるのはおかしいから……」
まさか、時雨は自分がそんな言葉を言えるだなんて思わなかった。
番を捨てた人間なのに。
仙波は驚いたように目を見開くと、目尻を下げて穏やかに微笑む。
「市谷さんは優しいんですね」
「いや、そんなことないです。」
仙波の言葉に時雨はすぐに否定した。
優しいわけが無い。
自分なんかが、優しいなどと言われて頷けるわけがないのだ。
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