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第51話 ひより

 病院に行くとやはり睡眠不足を指摘され、加えてストレスやきちんとしたバランスの良い食事を、と言われたのだが時雨は半分ぼんやりしながら医師の話を聞いた。  付き添いの仙波の方が真剣に話を聞いている始末。  待合室で御会計を待っている間に、時雨はフッと意識が飛ぶように眠たくなって頭をガクンと揺らす。 「市谷さん、もたれてもらっていいですよ。」 「ん、ゃ……大丈夫……」 「大丈夫じゃないから、俺にもたれてくださいね。」  そう言われてしまえば拒否できず、時雨はトンと仙波の肩に頭を預けるようにした。  距離が近いから仙波から少し甘い香りがする。  その香りは何故だか自分を包み込んでくれるような優しいそれで、スーッと吸えば一気に眠気が襲ってきた。  どう頑張っても眠気が来なかったのに。  この香りのおかげなのかも、時雨はそう思い後で仙波が何の柔軟剤や香水を使っているのか聞こうと思った。  それがあれば眠れるようになるだろうから。 「寒くないですか?」 「……ん」  もう少しで病院を出るのに眠っちゃダメだと、時雨はぼんやり床を見つめていた。  すると思っていたよりも早く名前を呼ばれて立ち上がる。  お会計をし、薬をもらって病院を出た二人。  時雨は仙波の方を見て「すみませんでした」と頭を下げた。 「え、やめてください! 気にしないで!」 「いや、だって……プライベートの時間まで、付き合ってもらって……」 「いいんですよ。それより早く帰って休みましょう。はい、行きますよ。」  仙波はまた時雨の体を支えようとしたので、時雨は慌てて首を左右に振る。 「一人で帰れます」 「危ないのでついて行きます」 「……。本当迷惑かけてすみません」 「迷惑じゃないです。気にしなくていいから」  シュンとしている時雨に『大丈夫』と伝えるために仙波は優しく小さくなっている背中を撫でた。  時雨と出会ってから数回しか会ってはいないが、仙波は彼が真面目な性格だと知っている。  そして彼の過去の話を聞いてから、様子がおかしくなったので、自分がした行いに対しての罪悪感で今は潰れてしまいそうなのだろうと簡単に予想がついた。  けれど、きっとそれは今眠れていないし、しっかり食べていないから、余計に悪いことばかり考えてしまっているのだろうと思って、仙波は少し考えたあと時雨に声をかける。

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