「今日食べるものは用意してます？」 「食べるもの……米はあったと思います」 「野菜とか、お肉は？」 「冷蔵庫見ないとわかんないけど、今日は食べる気にならないし、消化のいいもの適当に買って食べます。」 「……」 　仙波は『医者の話を聞いてなかったのかな。』と時雨を見て少しムッとしながら小さく微笑む。 「消化のいいものはわかるけど、バランスを考えないとまた倒れちゃいますよ。」 「そういうのは今までもしてこなかったし……。だから何とかなります。」 「倒れたくせに？」 「……」 　黙ってしまった時雨に対して『この人はアルファの癖にそれらしく見えないな』と、どこか頼りない彼が心配でついついお節介を焼いてしまう。 「俺が作ったら、それ食べます？」 「……？」 「また倒れちゃうんじゃないかって心配だから、食べてくれませんか？」 　真剣な表情を見せられ、時雨はコクッと頷いた。 「お金、払います。」 「え！？　いや、要らないです。これは俺がしたいだけだから」 　時雨は衝撃を受けた。 　まさか、自分が普段面倒だと思っていることを彼が『やりたい』と言うだなんて。 「でも、さすがに申し訳ないです。そんなに良くしてもらっても、俺は何も返せないし。」 　そう苦笑する時雨を見て、仙波は確かにあんまりやりすぎると気が引けてしまうよな……と、黙って頭を悩ませた。 「あ、じゃあ……俺、家に帰っても一人なんです。友達もいないし、家族もいないから……お家にお邪魔してる間、仕事はもちろんさせてもらうんですけど、よければお話したりとか……どうですか。」 「それは、もちろん……。え、それが何かお返しになりますか」 　仙波は大きく頷いた。 　話し相手がいるのは嬉しい。 　いつも狭くて静かな部屋で一人生活するのは寂しくてたまらないから。 「会話ができるのは嬉しいです。」 「……」 　そんな仙波の言葉に、時雨は色々なことを考えさせられた。 　仙波がオメガであるから、これまでそれが故の苦労を沢山重ねてきているのだろう。 「よろしくお願いします」 　時雨は小さく頭を下げて、仙波と二人自宅までゆっくりと歩いた。