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小学6年 別れ

 小学校6年生の時に寛太朗母子(かんたろうおやこ)は施設を出て近くの公営のアパートで暮らし始めた。  公営アパートは施設からはバスで一駅、歩いて15分くらいのところで生活圏はさほど変わらなかったしアパートは施設よりも古い。それでも寛太朗は小さいながら、自分の部屋を与えてもらい新しい世界を手に入れたようで気分は良かった。  母親はそのまま施設で職員として働き始め、寛太朗の為に割く時間よりも、よほど多くの時間を他の家族の為に費やしている。  明るく元気になった母親は施設に来る前までとはまるで別人のようだ。自分の母親なのに知らない人のようで不思議な気分になる時があったが、遠い距離感を保ち続けていたせいか、寛太朗にはそれが当たり前になっていて特に寂しいとも思わなかった。  6年生になって背が伸び、寛太朗はぐっと大人っぽい雰囲気になった。漆黒の瞳はさらに深く濡れたように輝き、それが愁いを含んだ影を落として寛太朗を特別な存在に見せていた。  寛太朗は新しいクラスでも委員長に選ばれたが、一部の生徒から優等生ぶりやがって、と影で言われるようになった。そういう奴らに限って陰口を叩くだけで、直接には何もしてこないのはわかっている。あえてそいつらに声をかけて委員長からの頼み事の一つや二つをした後、皆の前で感謝してみせれば面白いほどに従順になったりするのを、まるでゲームの技を習得するかのように身につけていった。    一方、美己男(みきお)は相変わらず知愛子(ちあこ)に邪険にされたり、可愛がられたりと、不安定な精神状態を強いられながら施設で生活していた。  さすがに昔ほど頻繁に癇癪は起こさなくなったが、一度キレれば手がつけられないのは相変わらずで、時々学校でも机をなぎ倒したり、施設で職員に当たり散らしたりする。  そういう日は大抵、15分の道のりをブラブラと歩いて寛太朗の家に来ると一緒に夕食を食べ、一緒に寝た。 「寛ちゃん、入れて。」 「ん。」  布団の中でゲームをやりながら風呂から上がってきた美己男を見ずに体だけずらしてスペースを空けてやる。  モゾモゾと潜り込んでくる美己男に 「また暴れたのか?」 と聞いた。 「ううん、ちゃーちゃんに追い出された。」 「ふーん。」 「寛ちゃん、ゲーム買ってもらったの?」 「いや、同クラの奴から借りてるだけ。」  仲良くなりたい奴がこうしてゲームやらマンガやらを勝手に差し出してくるのを寛太朗はありがたく拝借している。  もちろん返すつもりはない。  欠伸をするとゲームをセーブして寛太朗も布団に潜り込む。 「寛ちゃん、頭、撫でて。」 と美己男がいつものようにひっついてきた。 「お前、まだ頭撫でてもらってんの?」 「んー、時々。」  美己男は暗い所を怖がる。  夜、寝る時は明りを点けて寝るか誰かにひっついていないと眠れないらしい。髪を撫でてやるまでは眠れずにずっと話しかけてくる。 「まぁいいけど。」  寛太朗が半分寝ながら髪を撫でてやると、あっという間に美己男は寝息を立てる。美己男の寝息を聞きながら寛太朗もすぐに眠りに落ちた。  寛太朗が夜中にふと目が覚めると美己男が背中に頭をつけて震えているのに気が付いた。  寝ぼけながらも美己男がまた泣いているのかと思い声をかけた。 「みー?泣いてんのか?」  美己男がビクリとするので寛太朗は寝返りを打って美己男の方に向いた。 「みー?」  美己男が布団の中に頭を突っ込む。 「何だよ。」  寛太朗がかけ布団をめくった。 「あ、寛ちゃん。だめ。」  美己男が震える声で言った。  手をパジャマのズボンの中に突っ込んだまま丸まっている。      なんだ、手コキしてたのか 「みー、一緒に寝てる時に手コキなんかするか?普通。一人ん時にやれよ。」  寛太朗は欠伸しながら言った。 「だって、いつもちゃーちゃんがいるから。」  寛太朗はもう去年あたりから夢精が始まっていて、何度も一人で処理していた。  それほど触りたい欲求があるわけではないが放っておくとどうしても寝ている間に出てしまう。自分で処理していれば寝ている間に出てしまうことは少なくなるので、定期的にしているといった感じだ。  出す瞬間は確かに快感を伴うが気持ち良さは薄く触りたくてたまらない、というほどではない。  友達にはしたくてたまらない、という奴もいるけれど、あんまりやりすぎるとバカになる、と言う噂を耳にしてからは必要最小限にしている。      こんなことでバカになったら本当のバカじゃん   と結構本気で信じていた。 「うまくできないよぅ。」  美己男が涙目で寛太朗を見る。 「寛ちゃん、一人でやったことある?」 「あるよ、何回も。」 「じゃあ、寛ちゃん、手伝って。」 「やだよ。気持ち悪い。」  意地悪く言う。 「教えて、気持ちいやりかた。」 「ほっとけば寝てる間に勝手に出るだろ。朝、パンツに。」 「ヤダッ。今、出したい。気持ちよくなりたい。お願いっ。」  うー、と泣き出す。  寛太朗は美己男の泣き顔と懇願にゾクゾクと喜びが腹の底から湧いてくるのを感じた。  美己男をこんな風に泣かせるのは自分だけに許された特別な遊びのような気がして、たまらない気持ちになる。 「じゃあ一回してやるよ。後ろ向け。一回だけだぞ。」  美己男がモゾモゾと後ろを向く。  体を寄せ、背中から手を回すと美己男のモノを握った。  小さいが熱く勃ち上がっているのを、ゆっくりとしごき始める。 「あっ、あっ。」  美己男がすぐ涙声であえぎ始めた。  最初はゆっくり、だんだん早く。 「みー?あんま声出すなって。」  耳元で囁くと、 「あー、寛ちゃん、きもち。どーしよ。」 と、美己男はもう息が絶え絶えだ。 「あ、寛ちゃんっ。」  美己男は声をあげるとすぐに寛太朗の手の中に白い液を飛ばし、ビクビクと体を震わせて荒く息をした。 「気持ち良かったか?」  後ろから寛太朗が訊くと美己男がはぁ、とため息をついて小さく頷く。 「手、ドロドロ。臭え。」 「ごめん、寛ちゃん。」  美己男がトロリと甘えた声で謝る。  寛太朗はベッドから出て暗闇の中、ソロソロとトイレに向かった。  洗面所の扉を閉めて明りをつけ、眩しさに目を細めながら自分の下半身を見ると勃起しているのがパジャマの上からもはっきりとわかる。  手を洗ってから、寛太朗はトイレに入って今度は自分の処理をすると美己男が寝息を立てているベッドにそっと戻った。    *   *   *   *   * 「寛ちゃん、僕だけ隣の県の学校に行くことになったぁ。」  あと1か月で小学校も卒業する、という時になって美己男が隣に潜り込みながら寛太朗にそう言った。  寛太朗も美己男も2年前に比べて体がずぶんと大きくなった。  それでもまだ美己男が泊まる時には一緒に寝るからベッドはもうキチキチだ。 「おお、知ってる。全寮制んとこだろ?」  美己男がコクリと頷く。  寛太朗の母親が先日話してした通りだった。 美己男の母親の知愛子は最近できた彼氏の家に入り浸りでほとんど施設に帰って来なくなったらしい。美己男を全寮制の中学校に入れて自分は彼氏と一緒に住むと言い出した。  美己男は散々抵抗したようだったが、知愛子はもう施設を出る手続きをしてしまっていたし、彼氏ははなから子供と一緒に暮らす気はなく、美己男は寮に入るしかなくなってしまったのだ。 「気に入らないことがあるからって今までみたいに暴れるなよ。あそこ、めちゃくちゃ厳しいらしいから、殴られるぞ。」 「ヤダなぁ。寛ちゃんと同じ中学に行きたかった。」 「お前暴れてばっかりだからそんなとこ行かされんだよ。」 「寛ちゃんと一緒がいい。一人なんてヤダ。」  美己男がベソをかく。 「んなこと言ったってしょうがないだろ。まぁ、ヤバくなったらここに逃げてくればいいじゃん。」  寛太朗は欠伸をしながら言った。 「うん。寛ちゃん、頭、撫でて。」 「えー?また?」  ため息をつくと寛太朗は美己男の頭を抱えて髪を撫でる。 「ね、下も撫でて。」 「まだ一人でできないの?」  うーん、とモジモジする。 「じゃあ、チューしていい?」  美己男がえくぼをへこませながら訊いてくる。 「ヤダよ。なんでみーとしなくちゃなんないんだよ。」  寛太朗は驚いて身を引いた。 「だってもうすぐ会えなくなるし。寛ちゃんのこと好きだもん。」  そういうと美己男はムニュ、と唇を押し付けてきた。  温かく湿った美己男の唇は柔らかくてイチゴ牛乳の味がする。 「うぇ、お前、歯磨きしてないだろ。イチゴ牛乳の味がする。」  寛太朗は美己男を押しやった。 「したよー。」  美己男が唇をペロリと舐めた。 「もういいから後ろ向けって。擦ってやるから。」 「うん。」  嬉し気にズボンをずらす美己男を後ろから抱きかかえ握って動かし始めた。 「あっ、あっ、寛ちゃん。」  すぐに涙声になる。 「中学に行ったら自分でしろよ。」  寛太朗はぴったりと美己男の背中に自分の体を押し付け強くしごいた。美己男の甘酸っぱい匂いと熱い小さな体に寛太朗の下半身もズクズクと疼いてくる。目の前の美己男のピアスのついた耳たぶに思わずしゃぶりついた。 「あっ、はあっ、寛ちゃんっ、大好きぃ。」  ビクビクと美己男が白い液を放出する。  しばらく寛太朗は美己男から体を離すことができず、美己男の体にドクドクと自分の熱い鼓動を押し付けた。  美己男が寝息を立て始めてから寛太朗はノロノロとベッドから抜け出すと洗面所に向かう。下着が濡れて気持ちが悪い。  寛太朗はなぜか喉の奥が熱くなって涙が出そうになり、青臭い匂いを放つ下着をゴシゴシと流しで洗った。  卒業式が終わって寛太朗は友達の家の卒業パーティーに行くために皆と一緒にワイワイと連れ立って校門を出た。その時、知愛子と嬉しそうに写真を撮る美己男とすれ違った。 「寛ちゃん、バイバイ。」  美己男が手を振る。 「バイバイ、みー。」  そう返してそれきり、寛太朗は毎日の生活の中で段々と美己男のことを思い出さなくなっていった。  高校にあがる春休み、母親から美己男と知愛子がまたこっちに帰ってくることを聞かされた。知愛子が一緒に暮らしていた男に追い出されたので、また施設に入れないかと尋ねてきたそうだ。施設には入れないが、近くの支援を受けられる住居を紹介してもらい、そこで美己男と一緒に住むことになったのだ。  寛太朗はこの辺りでは一番偏差値の高い高校の特進クラスに入学する。美己男は同じ高校の工業科に進学するらしい。  久しぶりに美己男の名前を聞いて甘いイチゴ牛乳の匂いを思い出した。  よく考えたら施設で一緒に過ごしたのは2年ほどだ。      3年ぶりか  高校生になった美己男を想像しようとしても、泣いている顔の小さな美己男しか思い出せない。    もう一人で眠れるようになったのかな  一緒に夕食を食べ、眠ったことを懐かしく思い出しながらベッドに潜り込む。朝起きたら久しぶりに下着を汚していて、切ないような甘いような腹をくすぐる気持ちに、寛太朗は少し笑った。

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