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高校1年 夏休み

 夏休みに入り、寛太朗(かんたろう)は週末だけ1駅先のスーパーにアルバイトに行くことにした。  最初はカラオケボックスの受付をするつもりだったのだが、母親があまりに渋い顔をするので意地になって母親に何も言わせないような高級スーパーのレジ打ちのアルバイトを見つけてきた。  見たことのない輸入商品などを多数扱っていて、興味をひかれ英文の説明書を読んでいるうちに、社員に英文を訳してくれだの、外国人客の対応をしてくれだのと頼まれるようになり、意外と遣り甲斐があって楽しい。    他の日は保護施設で手伝いをしながら大学生ボランティアに勉強を教えてもらう。  臨時アルバイト扱いでほんの少しのバイト代をもらえるし、施設での活動として大学受験の際に有利な材料になるので寛太朗にとって悪くはなかった。  夏休みは施設にいる子供たちに宿題をさせたり自由研究の手伝いをしたりとなにかと忙しい。  施設で過ごす夏休みが少しでも楽しくなるようにと色々なイベントをボランティアたちが企画していたりして、それなりに盛り上がっていた。  今日は夜に子供達と花火をする予定だ。  花火の日は施設でカレーを作って皆で外で食べながら暗くなるのを待つのだが、子供たちは早い時間から待ちきれなくてソワソワと浮かれていて騒がしい。  寛太朗が施設に入居していた時は学生ボランティアはまだ来ていなかったが施設の職員たちが忙しい中、夏休みには1つや2つ、行事を催してくれていた。夏休みのカレーと花火はその頃からの恒例行事だ。  美己男(みきお)が初めて施設に来た年の夏にも一緒に花火をした記憶がある。  美己男は花火に興奮して大喜びだったが、火が怖くてなかなか手に持とうとせず 「ヤダッ、怖いっ、寛ちゃんがつけて」 と寛太朗の後ろにひっついた。 「なんで、自分で持ってつけろって」  寛太朗が花火に火をつけるとキャーキャー喜んで火のついた花火を寛太朗から受け取るが自分で持たせて火を点けさせると体をできるだけ遠くに離して点けようとするので、なかなか花火に火が移らない。  寛太朗が後ろから手を掴んで火に近づけようとしても腰が引けてなかなか寄ることができなくて大変だった。  寛太朗が意地悪をして、ねずみ花火に火をつけ美己男の足元に放ると 「寛ちゃんっ、やめてっ」 と足元でくるくると暴れ回るねずみ花火にピョンピョンと逃げ惑い泣きべそをかく。  最後に花火がパンッと弾けると、ギャッと叫んで寛太朗に飛びついてくるのが面白くて何度も放った。最後には汗をびっしょりかいて髪を額に張り付けながら泣いている美己男の顔を見て寛太朗は大笑いした。  ようやく外が暗くなり、子供たちが花火に火を点け始めてキャーキャーと興奮して声を上げた。色とりどりの火花が散ってモクモクと煙があがり、火薬の匂いが漂う。    美己男とは春に食堂で会って以来、話していない。特進と工業科の伝統は2人にも影響を及ぼしていて、お互い学校で見かけても知らぬ顔をしている。  寛太朗は今日、美己男がいないことを少し残念に思いながらねずみ花火に火を点けて子供たちの足元に放った。

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