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高校2年 初夏

 「(かん)、今月の英検受けるの?」    ポイ、と理貴(よしき)が箱入りのチョコレート菓子を机に投げて寄こす。 「サンキュ。去年失敗したから今年は早めに受ける」  寛太朗(かんたろう)は菓子のパッケージを開けながら頷いた。  英検取得は大学受験にかなり有利になる。  寛太朗は中学の頃から毎年取得していて、順調にレベルを上げていた。去年も一発合格できると思い込んで年3回開催している日程の最後を受験したら不合格だったのだ。  早めに受験しておけば1年生の間に合格できたのに、と後悔した。     今年は絶対に合格しなければ大学受験に間に合わない    そう思って一番最初の開催から受験することにしたのだ。  英語教師に借りた机の上の参考書をパラパラと理貴がめくる。 「ふーん、すげえな、難し」  理貴は興味なさそうに、パタンと本を閉じた。 「お前、英検の参考書持ってないだろ。だから先生に借りた。理貴は英検とか受けなくても短期留学してるから必要ないもんな」  すぐに何かしてやりたい病を発症する理貴にそれとなく話す。理由を言っておかなければ、自分は使わないくせに新しい参考書を山ほど買いかねない。 「今年も行くんだろ?サマースクール」 「んー、まあな」  つまらなさそうに菓子をポリポリと齧っているが、理貴は小学生の頃から夏休みは海外に短期留学に行っており、去年の夏はカナダに行っていた。 「留学っつってもほとんど遊んでるんだけどな」  理貴の父親はブライダル関係の会社の経営者で、海外にウェディングドレスの買い付けに行ったりしている。3代目の理貴は将来の為、と称して毎年海外に行っているという訳だ。 「いいじゃん、それでも。夏休みに海外とか、楽しそう」  寛太朗は理貴に言った。 「そうか?俺はこっちでお前らと遊ぶほうがいいけどな」 「夏休みにわざわざ会ってまで遊ぶかよ」  なあ?と(ぜん)に問いかける。 「無いな」  然の言葉に理貴が驚いた。 「え?1回も遊んでないの?お前ら」 「ないよ。遊ぶって、何して。俺、去年はバイトとかしてて忙しかったし。今年も同じ」 「然は?」 「俺も柔道の道場で子供の指導やってるからな。大会とか合宿とかがある」  えー、と理貴が体をのけ反らせる。 「んだよ、夏祭りとか花火大会とか、海水浴とか、夏はイベントだらけだろっ。彼女連れてみんなで行ったりするだろ、普通。寛は百花(ももか)ちゃん、連れてさぁ。浴衣姿の百花ちゃん、可愛いだろうな」 「人の彼女で妄想デートすんなよ。それにお前、去年は向こうの子とヤリまくったって、自慢してたろーが」 「何しに行ってんだよ、理貴は」  然が呆れた声で言う。 「だから、ほとんど遊んでんだよ。たいしたことしてないの」  そうは言っても理貴の英語はネイティブのような発音でかっこいい。外国人英語教師とも自然に英語で会話しているのをみると成果はあるようだ。 「それでもあんだけ話せるんならいいじゃん。羨ましいよ」  寛太朗も筆記とリスニングは得意でもスピーキングは苦手だ。 「じゃあさ、寛も今年、一緒にいかねぇ?今年はロスだぜ。そうだよ、一緒に行こう」  急に理貴が盛り上がる。 「行けるわけねぇだろ、バカ」 「なんでぇ?」 「そんな金、ないって」 「金は俺んとこで2人分、払うって。小さいフラット借りればお前の分は部屋代はいらないし。寛と一緒なら楽しそう」  ほんとに理貴はこういうことを簡単に言うよな、と寛太朗は怒るより感心してしまう。 親切心からだとしても、相手にどう捉えられるかわからないというのに、そんなことはお構いなしだ。他人に理解されようとされまいと関係なくそれが理貴の優しさなのだろう。 「無理無理、お前と一緒に暮らすなんて。夏休みにずっと理貴と一緒とか、あり得ない」  なんでだよっ、と理貴が食べかけの菓子を投げてくる。 「然が一緒に行ってくれるってさー」 「然は来るな」 「何でだよっ」  然が理貴を後ろから締めあげる。 「んー、ギブギブ。だって然、絶対向こうでモテるっ。俺、注目されなくなっちゃうじゃん」 「そんなことないだろ」  然が驚いて手を離した。 「お前、空手の威力、舐めんなよ。然の本物の空手見せたら、女の子、みんな然のところいくって」 「空手じゃねぇって、柔道。理貴はほんっとそういうとこいい加減だな」 「なんだよ理由、そこかよ。俺ならいいわけ?俺はもてそうにないから?」 「んー、寛なら俺の方が勝てるかなって」 「お前、殺す」  寛太朗は食べかけの菓子を投げ返す。 「俺の優れた技、舐めんなよ。お前のお母さまにもっかい発動するぞ」 「お母さま、言うな」 「ようちゃ・・」 「でかい声で言うなバカッ」  理貴が慌てるのを見てぎゃはは、と3人でバカみたいに笑った。

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