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高校3年 9月1日
「藍田 君、ちょっとお話できますか」
始業式が終わり、下校しようとしている時に工業科教諭の張間 に声をかけられ、その深刻そうな顔に寛太朗 の胸がざわついた。
「はい」
張間の後について作業室に入る。
「尾縣 君が今日、退学したのですが、理由を知っていたら教えてもらえませんか?」
そう訊かれて
「は?何て言いました?」
と、訊き返した。言われた意味が理解できない。
「ああ、やっぱり藍田君も知らなかったんですね。尾縣君が退学しました」
「退学・・?」
退学って?
「それは・・、学校を辞めたってこと?ですか?」
「そうですね、そういうことです」
話している内容に理解が追いつかない。
「いえ、知りませんでした。昨日、俺、あいつに会いましたけどいつも通り・・」
いや、いつも通りだったか?
そういえば、来年の誕生日の話にのってこなくて
最後にいつもよりしつこくまとわりついてきて
でも俺、浮かれてて、何にも
今朝まで腕の中にいたからすっかり安心して・・
寛太朗は額に手を当てた。
「いえ、何か変だったかも。あいつ、でも何も言わなかった」
「そうですか、藍田君のことを大事に思っていましたからね」
「大事にってっ、ほんとに大事ならちゃんと言うべきっ・・」
張間が黙って寛太朗を見る。
「あ・・すいません。あの、俺、もう行きます」
寛太朗は張間に頭を下げると、美己男 と知愛子 が住む文化住宅へと駆けた。
「みー?いないのか?みー?」
ドンドンと部屋のドアを叩き、ノブを回してみるが鍵がかかっている。
郵便受けにチラシやら封筒が突き刺さっており、いくつかの封筒が床に落ちて〇〇ファイナンスや〇〇金融、という文字が見えた。
借金・・、闇金?
寛太朗は郵便受けから封筒を抜き出して次々と見た。
知愛子の名前の中に美己男の名前もある。
あいつが借金?
いや、知愛子さんが美己男の名前を使ったんだ
「何だよ、クソ親がっ」
ガツッとドアを蹴飛ばし、しゃがみこんだ
やばくなったら逃げて来いって言ったのに
あんな母親、早く捨てろって言ったのに
やっと好きだって言ったばっかりで
これから何度も言うはず・・
「なんだ、置いていかれてんの、俺の方か・・。あったま悪いな、俺・・」
そう呟いて寛太朗は両手で顔を覆った。
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