20 / 22

高校3年 9月1日

藍田(あいだ)君、ちょっとお話できますか」  始業式が終わり、下校しようとしている時に工業科教諭の張間(はりま)に声をかけられ、その深刻そうな顔に寛太朗(かんたろう)の胸がざわついた。 「はい」  張間の後について作業室に入る。 「尾縣(おがた)君が今日、退学したのですが、理由を知っていたら教えてもらえませんか?」  そう訊かれて 「は?何て言いました?」 と、訊き返した。言われた意味が理解できない。 「ああ、やっぱり藍田君も知らなかったんですね。尾縣君が退学しました」 「退学・・?」     退学って? 「それは・・、学校を辞めたってこと?ですか?」 「そうですね、そういうことです」  話している内容に理解が追いつかない。 「いえ、知りませんでした。昨日、俺、あいつに会いましたけどいつも通り・・」     いや、いつも通りだったか?   そういえば、来年の誕生日の話にのってこなくて   最後にいつもよりしつこくまとわりついてきて   でも俺、浮かれてて、何にも   今朝まで腕の中にいたからすっかり安心して・・    寛太朗は額に手を当てた。 「いえ、何か変だったかも。あいつ、でも何も言わなかった」 「そうですか、藍田君のことを大事に思っていましたからね」 「大事にってっ、ほんとに大事ならちゃんと言うべきっ・・」  張間が黙って寛太朗を見る。 「あ・・すいません。あの、俺、もう行きます」  寛太朗は張間に頭を下げると、美己男(みきお)知愛子(ちあこ)が住む文化住宅へと駆けた。 「みー?いないのか?みー?」  ドンドンと部屋のドアを叩き、ノブを回してみるが鍵がかかっている。  郵便受けにチラシやら封筒が突き刺さっており、いくつかの封筒が床に落ちて〇〇ファイナンスや〇〇金融、という文字が見えた。     借金・・、闇金?    寛太朗は郵便受けから封筒を抜き出して次々と見た。  知愛子の名前の中に美己男の名前もある。     あいつが借金?   いや、知愛子さんが美己男の名前を使ったんだ 「何だよ、クソ親がっ」  ガツッとドアを蹴飛ばし、しゃがみこんだ     やばくなったら逃げて来いって言ったのに   あんな母親、早く捨てろって言ったのに   やっと好きだって言ったばっかりで   これから何度も言うはず・・ 「なんだ、置いていかれてんの、俺の方か・・。あったま悪いな、俺・・」    そう呟いて寛太朗は両手で顔を覆った。

ともだちにシェアしよう!