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高校3年 卒業式
「理貴 からなんか連絡あった?」
卒業式が終わって食堂で寛太朗 は然 と缶コーヒーを飲みながらワイワイと楽しそうに自撮りをしている生徒たちを眺めた。
「いや、何も。美己男 君からは?」
「いや、何も」
「そっか・・」
美己男がいなくなってから、施設やアルバイト先に美己男の行き先を知っている人がいないか聞き回ってみたが、行き先は誰も知らず、知愛子 が闇金で借金していて夜逃げしたのだろう、という予想通りのことしかわからなかった。
「理貴はもう忘れちゃってんじゃないか?俺らの事なんか」
「理貴はそうかもな。楽しくやってそうだよ」
「あいつらしいわ。そのほうが」
寛太朗の答えに然が声を出して笑った。
「美己男君はどうしてるんだろうな。心配だな」
「どうかな、意外とどっかで大事にされてるのかも。中学ん時みたいに」
「連絡くるよ、絶対」
「どうだろ。俺が追い詰めたからな、理貴も美己男も。美己男には俺か母親か選べって迫ったようなもんだし」
「寛が追い詰めたわけじゃないだろ」
「俺さ、子供の頃、母親に置いて行かれて泣き叫ぶ美己男の事バカだな、って思ってたんだよ。そんなクソ親、早く捨てればいいのにって。でも、自分が選ばれないってこんなにつらいんだな、って今になってわかった」
「寛が美己男君の事を大事に思っているのと同じくらい美己男君も寛の事、大事に思ってるんじゃないのか?お前に迷惑かけたくなかったんだろ」
「迷惑か。なんかそんな話もしたなぁ。本当に相手を信頼してるんならちゃんと相談できるんじゃないか、とか何とか偉そうに言った気がする」
「お前も美己男君も何も悪くない。お互いを思ってしたことだ。そんな風に考えるな」
「うん、ありがと。じゃあ、そろそろ、行くわ。引っ越しの準備しないと」
そう言って寛太朗は立ち上がった。
寛太朗も然も国立大学に合格し、それぞれ実家を出て1人暮らしを始める。
「おお、またな。連絡する。絶対諦めんなよ」
寛太朗は然に小さく頷き、食堂を出ると、工業科の張間 が寛太朗を待っていた。
「藍田 君、卒業おめでとうございます。それに大学合格もおめでとう」
「ありがとうございます」
寛太朗は張間に頭を下げた。
「少しお話できますか」
張間に促されベンチに腰かける。
「あれから、尾縣 君から連絡は?」
寛太朗は首を横に振った。
「そうですか。あの時、もっと早くに対処していればなんとかなったかもしれないのに、と後悔しています。一緒に卒業させてあげられなくて本当に残念です」
「・・俺、知ってました。あいつの母親、借金してるって美己男から聞いてたんです。いなくなってから家に行った時に、金融会社からの封筒がたくさんポストに残っていて、美己男の名前のもあって」
何で無理矢理にでも家に連れてこなかったんだろう
何であいつを連れて逃げなかったんだろう
「知ってて、俺、何もしなかった」
「当たり前です。君はまだ高校生だったんだから」
「偉そうなことばっか言って、でも結局捨てられたのは俺のほうでした」
寛太朗はそう呟いた。
「そうじゃありません。尾縣君は君が彼を守るためだったら何でもしてしまうと分かっていたんですよ。だけどそれだけはさせたくなかったんです」
「俺、自分は十分、大人のつもりで周りの大人たちに負けてないって思ってました。でも、全然そうじゃなかった。美己男を傷つけてばっかだった」
「君は頭が良くて面倒見の良い、素晴らしい人です。十分過ぎるくらい頑張っている生徒でした」
鼻の奥がツンとする。
「先生、美己男のこと、ありがとうございました」
「藍田君はしっかりと自分の人生を生きて下さい。それがいつか尾縣君を救うことになるはずです。卒業、ほんとにおめでとう」
おめでとう、という張間の言葉に背中を押されるようにして、寛太朗は高校を卒業した。
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