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第28話

 土煙を立てながら走り去っていくパトカーに向かって、玲衣は叫び続けた。追いかけようとするが止められ、暴れ、警官に噛みつき、「煌! 煌!」とまた叫び、涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃだった。  警官たちは、煌とは違って玲衣を乱暴には扱えず、泣き喚く玲衣に手をこまねいた。  その後、玲衣はもう一台のパトカーに乗せられ、警察署に連れて行かれた。  未成年者誘拐罪。  二人の失踪は、煌が玲衣を誘拐したとされていた。  玲衣が、自分が家を出たのは自分の意思であって、煌に騙されたり脅されたからではないと、どんなに言っても無駄だった。 「被害届だけじゃなくて、告訴状まで君のご家族から出ているからねぇ」  だとしても、中学生二人がいなくなったと聞いたら、家出か事故、最悪で事件に巻き込まれたと考えるのが普通だろう。  ひとりがもうひとりを誘拐したと考えるなんて、常軌を逸している。ましてや本人がこうやって訴えているのに。  すると、たとえ本人の承諾があったとしても玲衣が未成年であるため、保護者の同意がなければ罪が成立してしまうと教えられた。  家出した未成年者を家にかくまったり、離婚して別々に暮らす子どもを勝手に連れ出しても、罪に問われるのだそうだ。  それにしても、それらはあくまで成人と未成年者の話であって、煌と玲衣は同い年で、煌だって未成年者なのだ。  警察に義父の息がかかっているのは明らかだった。  そうまでして玲衣を連れ戻したかったのか。何の罪もない煌に、未成年者誘拐罪などという汚名を着せてまでして。  相手が煌だったら自分に害が及ぶことはないだろうし、どうとでもできると思ったのだろうか。  やり方が汚すぎる。  煌、ごめん。自分のせいでこんなことになってしまって、煌、本当にごめん。  百万円もの賞金をかけて玲衣を探していたのは探偵ではなく、警察だった。  一般への公開捜査こそ行われていなかったが、すでに全国の警察に二人の情報は行き渡っていて、そこへスーパーから煌の万引きの通報が入ったのだ。 「こんなの、おかしい。だったら僕だって煌に対して未成年者誘拐罪が成立するはずだ」  玲衣の言葉を年配の刑事は聞こえないフリをした。 「君は勉強もできて品行方正だったというじゃないか。このスマホだって彼に無理やり奪われたんだろう」  刑事が取り出して見せたのは、ジップロックに入った一台のスマホだった。  買収店で二人が売った、玲衣が煌にあげたスマホだった。 「それは煌の誕生日に僕があげたんです。スマホを見れば分かるでしょ。僕らは友だちで煌が僕を誘拐するなんてありえない」  新しく買った安いスマホも警察に没収されていた。  あれにはユーチューブにアップしようとして撮った動画やその他諸々、仲睦まじい二人の様子が映っている。 「私は長い間少年犯罪に関わってきたけどね、非行のきっかけは、悪い友人を持つところから始まるもんなんだよ。彼は過去に何回も補導されていて家庭環境も悪い。君とは全く違う世界で育ってきた人間なんだよ」 「だからなんなんですか。そもそも誘拐って、煌が僕の家に身代金でも要求したのならまだしも、こんなの馬鹿げてる」 「君には分からないかも知れないけどね、彼のような環境で育った人間はね、金になる人間を見つけると放っておかないんだよ。それはもう本能みたいなものでね、本人さえもそれに気づいてないのかもしれない」  最初は未成年者誘拐罪なんて、義父から圧力をかけられた警察の単なるこじつけだと思っていた。  しかし目の前の刑事は、本当に煌が何かしらの思惑を持って玲衣を連れ去ったと思っているようだった。  愕然とした。  何を言っても無駄だと思った。  これが大人の、世間が煌を見る目なのだ。  生まれ育った環境は煌のせいじゃないのに。確かに煌の素行はいいとはいえなかったけど、それは煌に暴力を振るう父親や、煌を捨てて家を出ていった母親のせいじゃないか。    煌は何一つ悪くない。  それなのに、こんなことになってしまって、全部自分のせいだ。  煌、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん。  心の中でいくら謝っても、罪悪感は膨れ上がるばかりだった。

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