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第37話

 煌が入所したのは、二人が夏を過ごした青い屋根の家がある町から、それほど遠くない場所にある少年院だった。  玲衣は高校の寮に入ることで、今よりも煌から距離的に離れることになったが、こればかりは仕方ない。  四月、玲衣は家を出た。  見送りの時、母だけが寂しそうにしていた。義兄は少し前から玲衣と目を合わせようとしなかった。  というのも、玲衣が難関校に合格したことで、義父の玲衣への態度が一変したのだ。  それまではただの再婚相手の連れ子で、息子の慰め者でしかなかった玲衣が、もしかすると、息子より将来性がある可能性が出てきたのだ。いろいろと問題がある義兄より、玲衣に自分の後を継がせた方がいいのではないか?  そんな義父の思惑とは対照的に、玲衣の家族への想いは冷え切っていた。  経済的にはまだ親の庇護下ではあるが、家を出て家族と離れて暮らすということは、玲衣にとって地獄のような日々からの解放だった。  もう自分がこの家で暮らすことはない。  子どもの頃から長く住み慣れた家だったが、あるのは思い出したくもない悪夢のような思い出ばかりだった。迎えの車に乗り込んでから、玲衣は一度も後ろを振り返らなかった。  清々しい気分だった。    玲衣は目を閉じ、窓から入ってくる春風を深く吸い込んだ。  日本一偏差値の高い高校。いわゆる、これからの日本を担っていく超エリートの卵たちは、地元の中学に通っていた生徒たちとはまるで違っていた。  玲衣は強迫性障害で執拗に身体を洗うことはなくなっていたが、人に触れられるのは相変わらず苦手だった。  玲衣のクラスメイトたちはしばらくすると、玲衣のそのことに気づき始めたが、彼らは大人だった。  それを理由に玲衣をいじめる者は一人もいなかった。それどころか、男子校で周りに女の子がいないこともあってか、みんなこぞって玲衣と親しくなりたがった。  自分はまた同性を変な気持ちにさせて、と心が翳りそうになったが、彼らの玲衣への興味は明るくおおらかで、それを変だと思う自分の方が変に思えてきた。  たくさんの友だちができた。こんなことは初めてだった。  中学時代、いやその前の小学校の時から、クラスでずっと独りだった玲衣には信じられないような学校生活だった。  バイキン君といじめられていた過去は玲衣のものではなく、玲衣によく似た誰か別の人間のもののように思えるほどだった。  寮での生活も思った以上に快適で、先輩たちも優しく、玲衣はいつも人に囲まれていた。  頭脳明晰な同級生たちと話すのは楽しかった。  みんな驚くほどしっかりとした考えを持っていて、けれどもティーンエイジャーらしい夢も持ち合わせていた。  将来の日本の総理大臣から宇宙飛行士、ノーベル賞を取るような科学者まで、普通の高校生が話していたら夢物語に聞こえるようなことも、彼らがすると、それらは実現可能な目標になった。  その中の一人で、特に親しくなった生徒がいた。  石塚颯太(いしづかそうた)は玲衣と同じ寮生で、クラスも同じだった。  文化系の部活が盛んな学校でありながら、サッカー部に入っていて、颯太は絵に描いたような文武両道のタイプだった。  スラリと背が高く、サッカーで鍛えた筋肉と日に焼けた肌が、どこか煌を思い出させた。男子校なのがもったいないほど整った顔立ちをしているのも、煌と似ていた。  玲衣は休みもほとんど家に帰らなかった。  運動部は授業がない日も練習をすることが多く、颯太も居残り組みで二人は急速に仲良くなっていった。  さすが日本一偏差値が高い学校だけあって、勉強は大変だったが、寮の先輩たちが面倒を見てくれたりしたことで、周りとの絆を深めるきっかけにもなった。  颯太が玲衣の部屋にやってきて、一緒に課題をすることも多かった。  寮の先輩の一人に誘われて、玲衣は天文学部に入った。  夜は颯太も一緒に、三人で夜空を眺めた。

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