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第39話

そうして一年が過ぎた。  冬休み、家に帰りたくない玲衣は、年末年始に一人旅の計画を立てていた。  すると、颯太も一緒に行きたいと言い出した。颯太の参加で国内旅行の予定が、カナダにオーロラを見に行く旅に変更になった。  そして、玲衣はオーロラの下で颯太から告白された。 「男同士だけど、僕はそれを変なことだとはちっとも思っていない。付き合って欲しいとはすぐには言わないけど、僕がそういう気持ちでいることは知っていて欲しいし、いつかは答えをもらいたい。できれば良い返事を」  颯太の告白に、玲衣はそれほど驚かなかった。  なんとなく、そうかな、とは前から感じていた。  しかし、颯太の堂々とした告白は少なからず玲衣の心を動かした。  それまで、玲衣は同性が自分に変な気持ちを抱くのは、玲衣が悪いのだと思っていた。それを颯太は最初にきっぱりと言って退けたのだ。 『男同士だけど、僕はそれを変なことだとはちっとも思っていない』  実際に颯太と一緒に旅行したアメリカやカナダでは、街でゲイカップルの姿を頻繁に見かけた。今はもう同性愛なんて普通のことなのかも知れない。  相変わらず玲衣は人に触れられるのは苦手で、颯太はそばにいながらも玲衣の身体に触れないよう、とても気を使っていてくれていた。  玲衣にその理由を決して聞いてこないところもありがたかった。本当は誰よりも玲衣に触れたいだろうに。  当たり前だが、颯太のことは決して嫌いではなかった。どちらかと言えば、いや、かなり好きだ。  けど、それが恋愛かと聞かれると違うような気もしたし、かといって、友情だけかと問われれば、それだけじゃないような気もした。  そう思うと、玲衣の煌への気持ちも、颯太への気持ちと似ているような気がしてきた。  煌の顔を今でもはっきり思い出せるようで、でも、絵に描いてみろと言われると、途端に細部があやふやになる。  煌への気持ちもそれと同じだった。煌のことが好きだとはっきり言えるけど、どこがどんなふうにと問われると、いきなり分からなくなる。  そして再び春がやって来た。  いつものように春休みも寮に居残っていた玲衣と颯太だったが、始業式の前日、颯太が改まった様子で玲衣に話があるので後から自分の部屋に来てほしいと言ってきた。  冬にされた告白のことについてだろうかと、玲衣は多少身構えながらも、颯太の部屋の扉をノックした。 「これを玲衣にもらって欲しいんだ」  颯太が差し出してきたのは、彼の制服のネクタイだった。 「これって……」 「うん、前に先輩たちが話していたやつ」  この学校の制服のネクタイには、自分のイニシャルが刺繍されていて、それを交換しあった相手とは、生涯切れることのない関係が結べるというジンクスがあった。  高校時代は一生の親友ができやすいと言われるものにあやかったのだろうが、男子校であるがゆえに、友情プラスアルファのちょっぴり甘酸っぱい想いも込められているのも確かだった。 「告白は告白、これはこれで。玲衣に振られても、僕はこれからもずっと玲衣の一番の友人でいたいから」  颯太は、自分のをもらってくれるだけでいいと言った。玲衣のネクタイを欲しいとまでは言わないと。  部屋にひとり戻った玲衣は、朱色でS.Iと刺繍されたネクタイを手に持ったまま椅子に腰かけた。  颯太は玲衣が好きだと、振られても生涯の友でいたいと言う。  颯太に指一本身体を触れさせない玲衣を、その理由も聞かず、颯太は受け入れ、そして玲衣を求めてくれている。  これから先、颯太のような友人にどれくらい出会えるだろうか。  告白の返事はともかく、すぐに玲衣が自分のネクタイを颯太に渡せなかったのは、どこかで自分が煌のことを気にしているからだと思った。  なんとなく、煌を裏切るような気がしたのだ。でもすぐにそれは、馬鹿らしい考えだとも思った。  きっと煌はそんなこと気にしない。颯太は颯太、煌は煌だ。  そして、颯太も煌も、玲衣にとって大事な存在であることに変わりはない。二人に優劣をつけることなどできない。  玲衣は椅子から立ち上がると、クローゼットから自分のネクタイを取り出した。  今からこれを颯太に渡しに行こう、そして伝えよう、玲衣も颯太をとても大事に思っているって。  その時、部屋のドアがノックされた。

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