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第47話
煌は玲衣をゆさぶる波をだんだんと大きくしていった。
玲衣、玲衣、と耳元にかかる煌のうわずった声と、玲衣の中を出たり入ったりする煌の熱で、思考がぼやけてくる。
代わりに煌を包み込んだ内壁の感覚が研ぎ澄まされてきた。煌にある箇所を擦られると、今まで経験したことのない疼きが生まれ、甘い声が出た。
「玲衣、ここが気持ちいいのか?」
気持ちいいとまで言えるのかどうか分からないが、今までにない感覚で答えに迷っていると、ズンと突き上げられた。
痺れるような快感が走った。玲衣が大きくのけぞって喘いだのを見て、煌は同じ場所を何度も突き上げてきた。
そこに小さいが鋭い快感の渦が生まれ、煌が当たる度にその渦が大きくなっていく。ビリビリと足先が痺れ、下半身が渦にのまれ、自分のものではなくなっていくような感覚に襲われる。
なんだか怖い。
押し寄せてくる渦から逃れるように、玲衣は身体をねじったが、すぐに煌に抱き止められる。
「玲衣」
煌の声で恐れは一瞬で消えた。この渦を作り出しているのが煌なのだと思うと、もう怖くはなかった。
「煌」
煌にしがみついた。
煌はそれを合図に腰を激しく律動させた。
快感の渦が一本の矢のようになって、玲衣を貫いた。玲衣はひときわ大きく喘ぐと、身体を弓のように反らせた。
渦が弾け、快感が破片となって玲衣の身体に散らばる。その余韻が冷めやらぬうちに、煌は玲衣のさらに奥を攻め立ててきた。
散らばった破片と一緒に、玲衣の奥に新たな渦が生まれる。
煌の熱が玲衣の渦に着火し、玲衣の最奥に火が灯る。
声さえも出なかった。出なくとも、玲衣のそこが煌にもっと欲しい、もっときて、とすがっていた。
煌も、さっきまでのように玲衣に細かく尋ねはしなかった。身体がそれを分かっていると言うように、自分の昂りを打ちつけてきた。
玲衣も煌の動きに合わせて腰を煌に押しつけた。
熱い息を交わしながら、二人は激しく揺れ合った。
光の海の中で抱き合っているようだった。
熱いのに心地よく、激しいのに優しく、ひと言の言葉も交わさず、二人は想いの全てを語り合った。
玲衣の最奥で灯る二人の熱は、やがて一つの大きな塊となって、そして弾けた。
何もない真っ白な空間に投げ出されながら、煌の熱が玲衣に注ぎ込まれていくのを感じた。
玲衣の中心から煌の熱が細胞の一つ一つに染み入りながら、身体の隅々まで広がってくる。快楽に甘く痺れる身体に、それは心地良かった。
それは目に見えず、触れることもできないものだったが、それは確かに煌だった。
そしてまた、煌と同じように玲衣の見えない何かが、煌の中に入っていくのを感じた。
皮膚という二人を隔てる境界線がなくなったように、二人は一つだった。
二人はそのまま溶け合うように抱き合い、一緒に温かなところへと落ちていった。
玲衣は薄れゆく意識の中で思った。
愛する人とのセックスは、こんなにも美しいものだったか。
穏やかな木漏れ日の中で目覚めると、煌の瞳に見守られていた。
煌は母親が幼い我が子にするように、玲衣の額にそっとキスをした。
「俺、そろそろ院に戻らないと。玲衣もみんなが心配してる」
「やだよ、まだ。まだもう少し一緒にいたい」
玲衣は煌の胸に顔を埋めた。
「規則破ると出院が伸びるから、それだけ玲衣と次に会えるのが遅くなる。あと少しだよ、玲衣。出たらすぐに玲衣に連絡する」
「もう日にちは分かってるの?」
「まだだけど、来月か遅くとも再来月には出られるはずだ」
それから二人はしばらくの間抱き合い、キスを交わし、お互いの身体に触れ合った。
名残惜しさにやっと決着をつけ家を出た時、太陽は西の空に大きく傾いていた。
以前この地にたどり着いた時と同じように、二人はピッタリと寄り添い、車窓から沈む夕日を眺めた。
「玲衣……これからもずっと、玲衣のことが好きだよ」
煌は握った玲衣の手にキスをしながら囁いた。
玲衣を置き去りにするのは嫌だからと、煌は玲衣を少年院までは送らせなかった。
煌だけが降り立ったホームを、玲衣だけを乗せた列車がゆっくりと離れていく。
車窓越しに恋人たちは、これが生涯最後かのような涙のキスを交わした。
少年院を出たらすぐに玲衣に連絡すると言っていた煌だったが、五月が過ぎ、六月が過ぎても、なんの音沙汰もなかった。
そして夏が訪れ、去り、秋が来て、白い冬になった。
煌が少年院に入って、すでに二年が経過していた。
何がなんでも遅すぎると感じた玲衣は、ダメもとで少年院に電話をかけてみた。
それまでは、頑なに煌のことを教えてくれなかったのに、今度はあっさりと返答があった。
『彼なら六月に出院していますよ』
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