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第49話

 玲衣が通う高校は、日本で一番偏差値の高い学校だった。  玲衣は頭のいい方だとは思っていたが、ものすごく努力したのだ。  学校のことを話す時の玲衣は、生き生きとしていた。とても充実した高校生活を送っているのだということが分かった。中学時代の玲衣からは想像もつかない変わりようだった。  けれど、きっとこれが本来の玲衣なのだ。明るく、利発で、誰からも愛される存在。  玲衣の高校の友人たちは、少年院に入っている少年たちとはまるで違った。頭が良く、愚かなことは絶対にやらない、将来、表舞台で活躍する未来ある若者たちだ。  特に玲衣と親しくしている颯太という彼は、育ってきた環境も玲衣とよく似ていて、二人でアメリカやカナダを旅行したと聞いた時は、正直かなり嫉妬した。  けれど、それと同時に彼のような人間こそが玲衣に必要なのだと思った。一緒に学び、将来を語り合い、同じ夢を見ることのできる相手こそが、玲衣を明るい未来に導いてくれるのだ。  自分には決してできないことだった。  ハーバードに留学して起業したいという彼と、中学さえまともに行かず、少年院を出た後どうなるか全く先が見えない自分。  颯太の影響で、玲衣もアメリカに留学したいようなことを言っていたし、たった一年ちょっとで、玲衣はしっかりとした考えを持つようになっていた。  もうYouTuberや自給自足などと言っていた玲衣ではないのだ。  これも全て玲衣を取り囲む友人たちの影響だろう。  それに比べて、煌が玲衣に与えたものは何だったか。  最終的に玲衣に万引きや置き引きをさせてしまった。自分の存在は玲衣にとって悪影響でしかない。  玲衣はきっと、「そんなことない」と言うだろう。  けれど、現実にそうだったのだ。  それでも、あの時は仕方がなかったのだと、玲衣を義兄から守るために逃げなければいけなかったからだと言い訳できた。  玲衣は自分の力で義兄の呪縛から解放されていた。  それが分かった時、本当にもう自分は玲衣に必要のない人間なのだと思った。  これから先は玲衣の邪魔になる、そう思った。  いや、本当は怖かったのかもしれない。  玲衣が大人になり、世間を知っていくうちに、いつか玲衣が煌から離れていく日が来ることを。  将来、玲衣が友人たちに煌を紹介するとき、自分のことを恥ずかしいと思われることが。  自分はなんて卑屈で器の小さい男なのだろう。けど、それが煌なのだ。  実は、出院してからこっそり玲衣の高校の文化祭に行ってみた。  玲衣はたくさんの友人に囲まれていた。  颯太と思われる男が、すぐ玲衣の横にいた。見た瞬間、颯太が玲衣に恋をしていると分かった。  駆け寄って、玲衣は自分のものだと言ってやりたかった。  それと同時に、玲衣が煌のいないところで笑っているのを見て、少しだけ傷ついた。  出院したら連絡すると誓った約束の時期は、とっくに過ぎていた。どこかで、当然のように玲衣は自分を待ち続けてくれているものと思っていた。  そして、その玲衣は、決して今のように楽しそうに笑っている玲衣ではなかった。  今度こそ、すっぱり玲衣を諦めよう。  そう心に誓った瞬間だった。  けれど、その後も何度か玲衣のSNSを覗いたりした。行動的で楽しそうな投稿を見るたびに、気持ちが沈んだ。  自分の性格がだんだんと歪んできそうだったので、ある日、玲衣のSNSを覗くことを自分に禁じた。  玲衣は、もう煌を待ってなんかいやしない。  玲衣は未来を見つめている。  煌は、玲衣にとってすでに過去でしかないのだ。  煌が見た玲衣の最後の投稿は、留学先のアメリカで、玲衣が友人と起業したことを報告する内容だった。

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