3 / 9

第3話

「違う!それじゃただのすねたガキだ。もっとこう腹に思うところがありながらも親だから嫌いになれない雰囲気を出して!」 「…はい。」 意外にも有人は癇癪を起すこともせず、しっかりと目の前の出来事に向き合って日々成長しているようだった。それは誰の目にも好意的に映るか…といえば、まあ、そうではないのが世の常だ。当然、口さがないものはどこにでもいて、実力のない2世だの、ボンボンの気まぐれだのそういった陰口はしょっちゅうあった。けれども、俳優になりたかったというのは本当のようで、今は実際に役者をやっているという喜びが彼を支えているようだった。  それでも涙を見せる日は彼にもあって、俺は車に連れていって中で好きなだけ泣かせてやった。時々は飲みに連れて行って話も聞いてやった。本来敵対する役なのであまりそういう事はしないほうがいいかなとも思ったが、切り替えができないタイプではなさそうなので気にしないことにした。そんなことをしていたら気がついたらなつかれていて、彼はよく休憩時間中も俺と一緒にいるようになった。  おかげで彼の周りの若い役者達も俺に話しかけてくるようになった。彼らのSNSに顔をだすようになったおかげで、俺も少しずつ世間に認知され始めた。10代の俺のことを知っている元ファン達も現れ、正直嬉しかった。あの頃はお金目当てで、当時のファンのことは失礼ながら全く覚えていないのに、昔の演技の癖や当時俺が流行らせたファッションアイテムのことなど、本当に些細なことまで覚えていてくれた。自分を評価して待ってくれていた人がいたという事実、それが嬉しかった。  それとは別に、ある動画サイトで、どう作ったのかは知らないが、俺と拓人がイチャイチャしているかんじのファンアートが出てきたときには時代の流れについていけていない自分をはっきりと自覚した。  雄人が現場に入ってきたときには、そういった、どこか学校のような空気はがらりと変わり、その重厚な雰囲気にうっかりのまれそうになるシーンが何度かあった。けれど、雄人に言われたのは全然別のシーンのことだった。 「君の一家団欒はなんだか噓くさい。芝居にすらなっていないな。何故だ?」 がんっとこめかみをでかいハンマーで殴られたような衝撃が走る。 「一家団欒…というものがなかなかわからない。です。お…私は、片親で。母も6歳くらいのときに亡くなって。祖父母もあまり喋る人たちではなかったので和気藹々とは…。妻帯者でもありませんし。」 渦巻く感情を振り絞ってそう言葉を紡ぐと、雄人は暫く考えてこう口にした。 「本庄君、次の休みはいつ?」

ともだちにシェアしよう!