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第4話

 その家は大きく豪華な家ばかりの住宅街の中でも一際目立っていた。まるでホテルかと思わせるような理想を絵に描いたようなその住宅は住人が只者ではないことをはっきりと知らしめていた。 「有人さん、いらっしゃい。どうぞ。」 拓人に促され、中に入ると、父に加えて大女優大貫恵子(おおぬきけいこ)と、同じく女優やモデルをしている高校生の(かなで)がいた。 「うっわ、ホントイケメン!画面でみるより色気が半端ない!」 TVで見るより若干幼い口調で奏が興奮しながら有人に駆け寄った。 「おい、有人さんに失礼だろ。自己紹介くらいしろ。」 そう窘める拓人に不満気な顔をする奏は小動物のように愛らしかった。 「知ってるよ。この間時代劇で話題になってたね。その若さであの存在感が出せるのは凄いから、覚えているよ。」 「は、尊い。こんな人に認知されてる私。どうしよう、今日が命日なの!?」 震える手を伸ばそうとする奏を遮るように拓人が椅子に座るように促した。 「ふふ、本当にお父さんの若い頃に似ているのね。なんだか懐かしいわ。」 正面に座ったのは恵子で、満面の笑顔で有人を見つめている。美人に見つめられてどうしたらいいのかどぎまぎしていると、 「有人さん、父さんの自慢が始まるから話適当に流しといていいよ。赤ワインと日本酒どっちがいい?」 と、拓人に問われた。 「あ、今日は車だから。」 「大丈夫。妻が下戸だから、帰りは妻が送るよ。車は置いていけばいい。後で私が乗って家まで帰しに行くよ。」 「そうよ。どんどん飲んで食べていって。最近お父さんも奏もあんまり食べないから作り甲斐がないのよ。」 「だってすぐ太っちゃうんだもん。日向(ひなた)がカフェに誘いまくるから。」 「今やっている役で太っていたらおかしいだろ。戦争も関わってくる話なんだから。ねえ、本庄君。」 そんな話がポンポン飛び交う温かな家庭。理想。正に理想の家族。一家団欒というものを自分に理解して欲しいという雄人の気持ちはわかる。わかるが、この光を浴びるたびにどうしても母のことが浮かぶ。あの優しい人は何故救われなかったのか。あの小さな手を何故しっかりと握ってくれなかったのか。生きるために沈めた感情が一つ一つ浮き上がってどろりとした沼を作っていく。そこから先のことはあまり覚えていない。 ♦♦♦ 「今日は本当にありがとうございました。車は後日受け取りに伺います。」 有人は小さなアパートの前に止まるには高級な車に向けてお辞儀をした。 「ねえ、また来てね。絶対よ。奏も拓人もお兄ちゃんみたいに懐いているし。」 「はい、是非また。」  走り去る車の後ろ姿を見ながら、有人は彼らがどうしたら苦しむのかを考えていた。 浮かんできた復讐の2文字がどうしても消えない。

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