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第6話

 撮影後、先に撮影を終えた拓人が有人が終わるのを待っていた。拓人はついでだから送ると自分の車の助手席に有人を乗せた。 「有人さん、俺有人さんの家にお邪魔してみたいんです。」 車を運転しながらふいに拓人が言った。 「あ、じゃあ今度…」 「今日がいいんです。どうしても相談したいことがあります。明日は入り時間一緒ですよね。運転も俺がしますから。」 言葉を遮るようにそう言われては有人に断る理由もなかった。 ♦♦♦ 「どうぞ。狭くて驚くかもしれないけれど。」 有人はここ最近人を招いたことがなかったので、細々とした者が片付いていない事が気になっていた。乱雑に放置されたドライヤーや雑誌がこの部屋を狭く見せているように感じて、そう言った。 「え?なんで?俺の芸能界の友達はこういう家に住んでる子もいるよ。俺も一人暮らししたらこういう所に住むと思うし。」 「いやダメだよ。ストーカーされまくるよ。もっとセキュリティの厳しい所じゃないと。」 はーいと言いながら手を洗う拓人を見ていると、有人は、なんだか彼がずっと一緒に育ってきた弟のような気がして、つい世話を焼きたくなった。  有人が冷蔵庫の中のもので作れたものは親子丼くらいだったが、拓人は喜んで食べていた。有人はせめて弟が一緒にいたら、俺もこんなにひねくれずに、孤独感を感じずに、父のことを忘れて生きていけたのだろうか?と彼の笑顔を見ながら思っていた。 「それで相談ってなんだ?」 食器を片付けながら友人がそう言うと、拓人は 「…ごめん、特にない。ただ部屋に入ってみたかっただけ。一緒にTV見て、漫画見て、ゴロゴロしたかっただけ。」  そう気まずげに視線を逸らした。その姿はやはり可愛らしく、有人の心を温めた。 「まあ、いいけど。風呂は湯船に浸かる派か?」 「シャワーでいいよ。あ、服は借りるけど洗って返す。」 そう言ったので、有人は自分のタンスにあるなるべく綺麗な服を探す為に濡れた手を拭いた。 風呂にも入った二人は酒も進み、いつしかTVを消して多少酔いながら話は有人の昔の話になっていた。 「俺は片親で、その母親も俺が幼い頃亡くなったから、俺は母方の祖父母に育てられた。二人ももういないから俺は天涯孤独ってやつだな。」 有人が少ししんみりしていると、拓人は 「今付き合っている人はいないの?」 と聞いてきた。 「3年前別れた。彼女も俺がもう一度芸能の道に戻るとは思っていなかっただろうなあ。」 有人はそう言って3年前に別れた彼女のことを少しだけ思い出してみたが、もう彼女の顔は朧気だった。  空き缶も空瓶もどんどん増えて、だんだんとふわふわした気分になって来たからだろうか、なんだか今日はよく口が動く。薄れていく意識の中で、何か暖かいものにしがみついたのは覚えている。夢のなかで縋り付いていたのは、若い頃映画で見た父で、俺は子供になっていて、必死で縋り付いて泣きわめいていた。俺を愛して欲しいと、傍にいてくれと、何度も何度も。

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