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第8話 ~side Takuto~
俺が初めて欲情を抱いたのはTV画面に映る若き日の父親。気が付くとボトムの前側がべっとりと濡れていた。俺の初恋は初恋だと気が付く間もなく見事に砕け散った。誰にも言えなかった。
それからは、思春期も手伝ってちょっと生活が荒れた。同性で、しかも自分の父親に初恋を捧げたのだから、やけにもなる。それに父親に半分くらいとはいえ顔が似た俺には、女も男も自分でもびっくりするくらい群がってきた。そりゃあまあ興味もそれなりに沸く。女とできるかも試してみたかった。だけど、その中の女がこっそり誰かと話していたのを聞いてしまったんだ。
「あんた流石にそれはヤバいって。本当に子供できたらどうするの?」
「むしろそれ狙い。だって子供でもできたらあの芸能一家瀬名家の一員だよ。それにもし両親が堕ろせって言ってきてもあのお坊ちゃんなら上手く騙せそう。責任とって、とか愛しているのに、とか言ったらすんなり受け入れて両親を説得しそうじゃない?愛嬌があって顔も良くって素直なんて最高だよね。」
バカか俺は。その一言に尽きる。あんな女にまで下に見られるほど今の自分が安い石ころに成り下がっているのを知った。今のままでは父さんたちに迷惑をかける。俺はその日から生活を立て直すことにした。
夜遊びに使っていた時間が空いたのでTVを見るようになった。父さん目当てで見始めたが、そこで一際目を引くタレントを見つけた。それが有人だった。
最初は父さんに似ているという興味しかなかったが、見るたびに違う側面が出てくるような演技に惹かれていった。
バラエティーで見る有人は雰囲気ががらりと変わって、真面目で誠実。でもどこか世間知らずな所もあるように思えた。父さんと性格は全く違うのかのりのよさはなかったが、どこか色気があるとSNSでは盛り上がっていた。
暫くはSNSのオタクたちと語り合うことで満足していたが、いきなり有人が泣いて画面から消えてしまった。俺の落ち込みっぷりは尋常ではなく、母さんはもの凄く心配して自分の仕事を少しセーブして一緒にいてくれた。
そのときたまたま来ていた母の古くからの知り合いにメンズ雑誌のモデルに誘われた。母は今回も断るだろうと彼女に言ったが、俺はやると答えた。俺は芸能界で有人を探そうと決意したのだ。
仕事場で出会う色々な人に声をかけ、有人のことを聞いて回って得られた回答はどうやら引退したのだろうということだった。ショックだったが、この頃にはすでにどこか諦めていたところもあった。そろそろ俳優デビューをというところで、佐々木というマネージャーに会った。この話の脇役にと直談判をしにトップライトにきたようだった。
「うーん、佐々木さんの頼みならうちの事務所じゃなくても使ってみようと思ったけど、この人一回引退してるよね。宣材だって、これ引退前のでしょ?」
「引退じゃなくて休養なんですよ。復帰するために脇役でも話題作にだしてやりたいんです。きっといい演技をします。」
「こちらとしてはもっと若い役者さんがいいですね。今あなたが面倒をみてる川村君とかどうですか?」
この空気の中、金木に話しかけるのは迷いはあったが、自分も用事があって来ているので、随分と食い下がる客を横目に話しかけた。
「脇役なら別にいいんじゃないですか?空気感を壊さない人なら…」
そう言って手にとった宣材写真には探し続けた彼が映っていた。彼はあの時のままの風貌で微笑んでいた。
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