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執事ドナートの懸念[2]

 その日、ドナートはジェラルドの書斎を訪れた。  レオネは自身の書斎で領地の仕事をしているようだ。  この二ヶ月、家だと大体二人は一緒に居るので、ジェラルドだけに話をするチャンスは中々巡ってこない。  この機会にしかと言わねばと思い、ドナートは行動に出た。  ノックの後「ドナートでございます」と名乗り、ジェラルドの許可の後、書斎に入った。  ジェラルドは煙草を咥え、書類に目を落としたままだ。 「ジェラルド様、恐れながらお話したい事がごさいます」  ドナートのただならぬ雰囲気にジェラルドはチラッと視線を向けながらも、また書類に視線を戻し「なんだ?」と言った。  無関心そうなその態度に臆することなくドナートは言った。 「夫婦仲が良いのは大変喜ばしいことでございますが、少々お控えになった方が宜しいかと。レオネ様はご婦人とは違いますので、お身体が」 「待て待て待て!」  ドナートの語尾に被せるようにジェラルドが声を張り上げて言った。  ジェラルドは咥えていた煙草を灰皿に押し付けてひねり消す。 「いきなり何なんだ⁉ 何故そんなことをお前に言われなければならん!」  動揺と苛立ちを混じらせジェラルドは言ってきた。だがドナートには想定通りの反応だった。 「私だからこそ、申し上げているのです。ジェラルド様にこのようなことを言えるのはもう私だけでございますから」  恨まれて疎まれても構わない。  それはもはや子を思う親心にも等しい。  ドナートはそれが正しいと確信していた。 「若く美しいレオネ様と想いを通わされ、つい求めてしまう気持ちも理解できます。ですが、ジェラルド様に求められレオネ様が断れるわけがございません。もう少し慎まれないと……」  ドナートが丁寧に諭していると、ジェラルドは革張りの椅子にのけぞり「はぁ~」と大きく溜息をついた。 「……ドナート、勘弁してくれ。私はもう四十間近だぞ。思春期じゃあるまいし、今更お前から性教育を受けるつもりはない」  そう言われてドナートは思い出した。  ジェラルドが前妻エレナと結婚を決めた時、妻との(ねや)で良き夫としてどう振る舞うべきか教えてのはドナートだ。  あの時ジェラルドは十八歳で素直にドナートの話を聞いていた。 「エレナ様とご結婚された時は、こんなに寝室に籠もられることは無かったではないですか。私の忠告通り、実に紳士に振る舞われていたと思います」  ドナートの問いかけにジェラルドはさらに苛つきながら言った。 「エレナは女で、レオネは男だ。比べるものじゃない。それに正直、当時だってお前からそんな話をされるのは苦痛だったよ」  二十年前の事を否定されてドナートはガッカリした。  ジェラルドの為を思って言っているのに、昔も今も煙たがられる。  こうも分からず屋で頑固者の(あるじ)。  果たしてどうしたものか……と考えを巡らせていると、ジェラルドはハッとしたように言ってきた。

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