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ジェラルドの失態[1]

「なんと言うか、こう……もっと地味なのは無いのか」  ジェラルドにそう言われて、外商の男は「そ、そうですね……」と言いつつ、困惑した表情を浮かべた。 「(ねずみ)色より地味な色って何でしょうか……」  その鼠色の生地を肩に掛けられているレオネも困惑しながら言う。  確かに自分でも『何を言っているのだ』とジェラルドは思った。  今日はレオネのスーツを仕立てるべく、百貨店の外商を呼んだ。  玄関ホールの左側にあるサロンで、レオネにあれこれと生地を当てさせ、どれが良いか選んでいる。  これまでにもよく姉のジルベルタが外商を呼び付け、レオネを着せ替え人形のようにしてあれこれと買っていたが、ジェラルドは正直それが羨ましかった。  妻であるレオネと想いを通わせ、本当の意味での『夫妻』となり三ヶ月。  レオネのスーツを選ぶのを楽しみにしていたジェラルドだが、状況を考えるとそんなに単純な話しではなかった。  レオネのスーツを新たに仕立てることになったのは、レオネを商会へ連れて行くことになったからだ。  以前、ジェラルドはレオネの商才に大きな可能性を感じ、「今後もっと事業に関わらせる」と言った。その事をレオネは大いに喜んだ。  そう思った事に偽りは無いし、今でもレオネは良い稼ぎ頭となるだろうとジェラルドは思っている。  しかしこの美しい妻を商会で働かせたらどうなるだろうか。  ジェラルドが会長を務めるバラルディ商会はこのロヴァティア王国に於いて一番の売上を誇る。  そんな商会に関わる者たちは、皆フロンティア精神に溢れ、常に貪欲に前に向かって突き進ん行く者たちばかりだ。  つまりは肉食獣のように血気盛んなのだ。  そんな彼らの中にこの美しい妻を放り込むことになる。  ジェラルドは何故深く考えもせず、レオネに「もっと事業に関わらせる」などと言ってしまったのだろうかと後悔していた。 (でも、レオネにそんなこと今更言えないんだよなぁ……)  こうなったら地味な服装でなんとかその美しさを隠せないだろうかと思ったのだが、全く上手くいかない。 (何を着せても可愛い……)  惚れた欲目もあるのだろうが、レオネは鼠色やくすんだ茶色の生地でもその長く美しい金髪と紺碧の瞳で艶やかに見えてしまう。  むしろ地味な色合いがなんだか純朴な印象を与えて返って男心をくすぐる。  ……と、ジェラルドは感じていた。  眉間にシワを寄せ、短い黒髪を掻くジェラルドをレオネが不安そうな目で見てくる。  これ以上自分の我儘に付き合わせるのも悪いと思い、眼鏡を押し上げジェラルドは口を開いた。 「わかったよ。この生地と先程の茶色で、二着仕立ててくれ」  外商はホッとしたように「承知致しました」と言った。

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