9 / 27
ジェラルドの失態[4]
アンナはジェラルドの意見を肯定しつつも付け加えた。
「真珠は清楚なイメージでレオネ様に実によくお似合いになるでしょうが、ここは思い切ってルビーはいかがでしょうか」
そう言ってルビーが散りばめられたアクセサリーを出した。
それはかなり大きなもので金の細いチェーンが何本も出ており、そのチェーンの所々に紅い石がキラキラと光っていた。
「それは、なんだ?」
「ネックレスでございます。ここを首に着けて頂くと、胸にチェーンが放射状にかかります」
「なるほど……」
頷きながらジェラルドはレオネが着けた時をイメージした。
(ルビー、良いかもしない……)
確かに真珠はレオネによく似合いそうだが、このアクセサリーを作る『目的』を考えると清楚さを求めるのは違うのかもしれない。
この金と紅のアクセサリーを身に纏ったレオネを想像すると、それだけで興奮してくる。
するとネックレスを見つめるジェラルドにアンナが言った。
「お望みであれば、私が代りに着用いたしますが、いかがでしょうか」
ジェラルドは「は?」と思いアンナに目を向けると彼女は妖艶な笑みを湛えていた。
言われたことを反芻する。
やたらと色気を振り撒いているこの女は、つまりそういう口実で客の相手もしていると言うことだ。
ジェラルドは自分の中の熱がスッと冷めるのを感じた。
そして冷たく言い放った。
「私の妻の代わりを君が務められるとでも?」
ジェラルドの棘のある言い方に、アンナは笑顔を消した。
「……差し出がましいことを申しました。申し訳ございません」
空気を読んで直ぐに謝罪したアンナにジェラルドは少しきつい言い方になりすぎたと反省し、付け加えた。
「単に『婦人の外商員で』と言ってしまったから誤解を与えたようだ。そう言うつもりは一切無いんだ」
そう言ったジェラルドにアンナは重ねて「大変失礼致しました」と言った。
結局、ジェラルドはネックレスを含む五点を注文した。
場合によっては商談自体を無かった事にして、アンナをそのまま帰したい気もしたが、商品に対する知識や提案は的確だった。
玄関でドナートと共にアンナを見送った後、ドナートが聞いてきた。
「レオネ様に贈り物ですか?」
「ん……まあ、そんなところかな」
ジェラルドは曖昧に答えた。
完全にジェラルドの欲望だけで注文されたそれらは、レオネへの贈り物とは言い難かった。
ともだちにシェアしよう!