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ジェラルドの失態[8]
その日の予定は全てキャンセルしてジェラルドは自宅へと戻った。
家に着き、すぐさまレオネの書斎を訪れるとレオネは驚いた様子で言った。
「ジェラルド! こんな時間にどうされたのですか?」
今朝しっかり顔を合わせていなかったので気付かなかったが、こころなしか目元が赤い。
ジェラルドは大股でレオネに近づくとそのまま力強く抱き締めた。
「ジェ、ジェラルド⁉」
レオネがさらに驚いて声を上げる。
「レオネ、すまなかった! 君を不安にさせてしまった!」
抱き締めたレオネの身体がビクリと震え、ジェラルドは確信した。
「君は昨日、この家から外商が出てくるのを見たんだな? 婦人の外商だ」
抱擁を解き、レオネの顔を見つめながら言うと、レオネはジェラルドの視線から逃れるように下を向き固まった。
(やっぱり当たりだ)
ジェラルドは確信して話を続けた。
「レオネ……誤解だ。その、いかがわしい目的で呼んだんじゃない」
(いや、ある意味いかがわしい目的ではあるが……)
心でふと思ったが話がややこしくなるので一旦置いておく。
「あの外商は、」
弁解を続けようとした時、レオネが口を開いた。
「ジェラルド、良いんです。……夫のちょっとしたつまみ食いくらい、許容できる妻にならないと、と思っています。でも……その、態度に出てしまっていたようですね……。すみません」
下を向いたまま、訥々 と語るレオネ。何とか笑顔を作ろうとしているが引き攣っている。
ジェラルドは再び強く抱き締めレオネに言った。
「レオネ、本当に何も無いんだ。何も無いが……、そんなこと言わないでくれ。私が浮気したと思っているなら、君はもっと怒っていい」
レオネは震えながらジェラルドの背中にゆっくりと腕を回ししがみついてきた。
そしてグスグスと泣き出した。
「だっ、だって……、貴方は元々女性が好きなのでしょうし……男の身体では飽きてしまっても、仕方ないと……私は少年のような華奢で可愛いわけでも無いですし……」
ジェラルドは嗚咽を漏らすレオネの背中を擦り、宥めながら言った。
「私が君を飽きるわけないだろう!」
レオネは誰からも美しいと言われ、社交界では『ホワイトローズ』と二つ名が付いているくらいだ。
ジェラルドも日々可愛い、可愛いと言っているのだが、この自信の無さはどこから来るのか……。
(やっぱり、私がいけないんだよな……)
ジェラルドの妻でありながら求められることが無かった約半年間はレオネのトラウマになっている。
その半年間、レオネの中では『愛されたい』よりも『嫌われたくない』が優先され、今でもそれを引きずっている。
こうなると三ヶ月ですぐに変わるものではない。
ジェラルドは日々愛情を注いで安心させていくしかないのだろうと思った。
「レオネ、私の書斎においで。ちゃんと話そう」
そう言ってジェラルドはレオネの手を引いた。
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