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ジェラルドの失態[10]

「これで私が外商を呼んだ理由が、もっと格好のいいものだったら話の結末としてよかったんだけどなぁ……。例えば君への誕生日プレゼントとかさ」  レオネの背中をさすりながらジェラルドは言った。レオネは顔をあげてジェラルドを見つめてくる。瞳が教えろと言っている。  ジェラルドはレオネへの抱擁を解くと、書斎机に向かい、引き出しから(くだん)型録(カタログ)を取り出した。 「君のスーツを作った時にいつもの外商から渡されたんだ」  そう言って、レオネに渡した。  レオネは受け取るとパラッと中を開き、目を見張った。 「なっ!」  中には美しく、しかし際どい絵が並んでいる筈だ。 「あの時、君のスーツを決めかねてる私を見て、あの外商は私の君への執着ぷりに気付いたんだろうな。私にそれを見せればきっと何か買うだろうと予想したんだろう」  型録から顔を上げてレオネは不思議そうな顔をする。 「私のスーツを仕立てた時、ジェラルドはあまり楽しそうでは無かったと思いましたが」 「そうだよ。狼の巣窟の商会へ君を連れて行かねばならないのに、君ときたら何を着ても可愛いし、どうやっても目立つのだから」 「は、はぁ……」  レオネはいまいちわからなさそうな顔をしている。 「とにかく、外商の思惑通り、私はその型録を見てそれらを君に着けさせたくなった」 「わ、私がこれを着けるんですか⁉」  今更ながらレオネが驚いたように言った。 「そうだ。他にどうすると言うんだ」 「え、だってこんな……」    レオネが戸惑っているが、ジェラルドは話を進めた。 「とにかく、それで詳しく話をするべく、外商を呼んだ。そしたらあの婦人外商が来た。それだけだ」  坦々と語るジェラルドにレオネが質問してきた。 「何故いつもの外商さんじゃなかったんですか? あの女性がこの商品の担当だったのですか?」 「いや、私が女性にしてくれと言ったんだ」  レオネの顔に再び不信感が浮かぶ。 「いやだって、君が素肌に身に付ける物を相談するんだぞ! 男になんて話したら、君が着けている姿を想像されるじゃないか!」 「は、はあ……」  ジェラルドが力いっぱいそう言うとレオネはポカンとしながらも一応相槌を打った。 「しかし、疑われてもおかしくない行動を取って君を傷付けてしまった。それに関しては申し訳なかった」  ジェラルドは改めてレオネに対して丁寧に頭を下げた。  数秒の沈黙の後、レオネはフッと吹き出しクスクスと笑い始めた。笑い始めたら止まらなくなったようで腹を抱えて震えている。  ジェラルドは再びレオネの隣にドサッと腰を下ろし、ヒクヒクと笑うレオネの髪を撫でた。 「幻滅したか?」  笑い続けるレオネに尋ねる。  レオネは苦しそうに笑いをなんとか治めながら顔を上げ、ジェラルド腕にもたれかかってきた。 「私、時々ジェラルドが可愛いと思う時があります」  もうすぐ三十九歳になろうとしている男に何を言うかと思ったが、とても幸せそうな笑顔で言われ、ジェラルドも思わず微笑み返した。 「私が君のことで頭がいっぱいだって分かっただろう? だから不満があったら怒って欲しいし、もっと我儘も言ってくれ」  レオネはジェラルドの腕に頭を預けたまま、コクリと頷いた。 「レオネ、愛してるよ」 「私もです、ジェラルド。愛してます」  ジェラルドはレオネの頬を撫で、その淡い紅色の唇に唇を合わせた。

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