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ジェラルドの失態[12]

「こちらがご注文頂いた五点でございます。ご確認くださいませ」  ビロード製の黒い布が広げられ、その上で金とルビーが光り輝く。  ジェラルドはその五種類のアクセサリーを見つめた。  想像以上に素晴らしい仕上がりだった。  早くレオネに着けて欲しい。……と思うのだが、依然としてレオネの了承は得られていない。 「いい出来だ。問題ないよ」 「ありがとうございます。私としましてもこれまでに携わった中で最高傑作でございます」  アンナが受領書を差し出し「ではこちらにサインを」と言ってきた。  あらためて金額を見て心が沈む。  レオネがこれらを着けてくれると確証があれば全く気にならないのだが、箪笥の肥やしにするにはありえないほどのゼロが並んでいる。  ジェラルドはレオネの気分が変わってくれる可能性にかけ受領書にサインをした。  アンナは受領書を受け取り控えを戻してきた。  その時、何かに気付いたアンナが突然立ち上がり言った。 「レオネ様!」  振り向くとサロンにレオネが入ってきた。 「ご挨拶だけでも思いまして」  レオネは社交界で慣れた笑顔を貼り付け、スッと伸びた姿勢で優雅に歩いてくる。  アンナは慌てたようにレオネの前へと歩み出て、握手を交わした。 「お初にお目にかかります。アンナと申します」 「レオネです」  アンナはレオネの『王子様』感に見惚れ、気分が高揚しているようだった。  そんなアンナを気にすることなく、レオネはジェラルドの背後からテーブルに並べられたアクセサリーを覗き込む。 「そんなに作ったんですか?」  やや不機嫌そうに言われる。 「全身コーディネートで一式お作り致しました。素晴らしい出来でございますよ」  アンナがニコニコと説明する。 「ひょっとして、そのルビー本物ですか」  レオネがイヤリングに付いた一番の大きなルビーを指して言う。 「もちろんでございます! ジェラルド様がレオネ様にイミテーションを贈るわけがございません」  レオネの視線がテーブル上の受領書控えに移った気がしてジェラルドはスッとそれを取り、二つ折りにしてジャケットの内ポケットにしまった。  レオネに視線を向けると紺碧の瞳がこちらを睨んでいる。  その瞳は「キャンセルすれば良かったのに」と言っているようだ。 「レオネ様に来て頂いてちょうど良かったです」  二人の険悪なムードを察したのか、逆に気付いていないのか、アンナが嬉しそうにそして早口で話し始めた。 「着け方のご説明をさせて頂きますね。殿方はアクセサリーをお着けになる機会があまりございませんでしょう? でも簡単でございますのでご安心くださいませ。ささ、レオネ様、こちらにお座りになって」 「あ、いえ、私は……」 「大丈夫でございますよ。図入りの説明書もございますので、不安でしたら実際にお召しになる時にご確認くださいませ。今は軽くご説明致しますね」  レオネは戸惑いながらもその気迫に押されて椅子に座らされた。 「あ、ジェラルド様は席を外して頂けますか」 「は?」  突然出ていけと言われて眉を顰める。  しかしアンナは臆すること無くニコニコと続けた。 「奥様の舞台裏はご主人様が覗くものではございません。レオネ様がご心配でしたら玄関ホールでお待ちくださいませ」  レオネ同様、ジェラルドもアンナの気迫に負け、サロンを追い出されてしまった。  ジェラルドは仕方なく玄関ホール端の椅子に座り、煙草に火をつけた。 「まあ! レオネ様、とっってもよくお似合いですわ!」  中からはアンナの興奮した声が聴こえてくる。  逆にレオネは「はあ……」とか「はい……」と控えめな相槌程度だ。  ジェラルドはこれが良い方に転がることを祈るばかりだった。

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