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ジェラルドの失態[21]

「それで、先日のお品はお気に召しましたでしょうか」  アクセサリーの納品から一週間後。アンナが再びバラルディ家を訪れた。  いつものサロンでアンナはニコニコしながら質問を投げかける。 「んー、どうだろうね」  ジェラルドははぐらかしながら横に座るレオネを見た。  レオネは無言で俯くが、耳まで真っ赤だ。 「まあ、君にはまた何かお願いするかもしれないよ」  ジェラルドからのその言葉が意味するところを理解したアンナは満面の笑みで言った。 「はい。是非なんなりと」  アンナは巧みな話術で見事にレオネを誘導し、アクセサリーだけでなく、あのいやらしい下着を着けさせ、騎乗位までさせたのだ。  そもそもアクセサリー一式を着ける気にさせたことすら彼女の功績かもしれない。  アンナもジェラルドが自分の顧客になるかはレオネにかかっていると思ったのだろう。  レオネがその気になってくれれば、ジェラルドは次もきっと何か買う。 (この女、敵に回すと大変な事になりそうだ)  ジェラルドはアンナの手腕に若干の恐怖すら感じた。 「それで、本日お伺いしたのは是非お見せしたい型録(カタログ)がごさいまして」  アンナが鞄から大きめの冊子を出し、応接テーブルに置いた。  今度はどんな破廉恥な商品だろうかと期待………もとい警戒してそれを見ると、それはスーツの型録だった。 「この春の新作スーツでごさいます」  ジェラルドは型録をパラパラと捲りざっと見た。  そこには春から夏にかけてのハイブランドなスーツの図案が並んでいた。所々に着用シーンの挿絵も入っている。  レオネに型録を渡すとレオネもパラパラと見て言った。 「ジェラルドにですかね。私はつい先日作って頂いたので」  レオネの問にアンナが言った。 「もちろんジェラルド様にも、とは思いますが、私はぜひレオネ様用にお作り頂きたいのです」  アンナが前のめり気味に言ったことにレオネは困惑した表情を浮かべる。  ジェラルドはレオネから再び型録を受け取り、もう一度中をよく見た。  確かにレオネによく似合いそうなデザインが並んでいる。 「プライベート用に作るのも有りかもな」  ジェラルドが呟くとレオネは益々困惑の表情を浮かべる。 「服は十分に持っていますので大丈夫です。ジル姉様から買って頂いたものも沢山ありますし」  それはむしろジェラルドが買いたくなる理由でもある。  この前は仕事用に選んだから全然楽しく無かった。  本当はジルベルタがレオネにしていたように、レオネが似合うものを選び着せたいのだ。プライベート用ならそれができる。

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