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ジェラルドの失態[22]

「ジェラルド様、先日ご購入頂いたスーツはレオネ様のお仕事用とのことですね」  アンナが聞いてきたので「そうだ」と答えた。 「地味めなお色をお選びになったのは、やはりレオネ様に言い寄る(やから)からレオネ様を隠す目的でしょうか」  ズバリ言い当てられてジェラルドは少し驚いた。  いつもの担当外商に聞いたのかもしれない。 「まあ、そうだ。結局スーツでは隠しきれないと諦めたが」 「左様でございますね……」  自身の容姿について話す二人にレオネはどう口を挟んで良いか分からないようで黙って聞いてる。   「それで……同じ当店外商がご案内して購入頂いたのに申し訳ないのですが、私の予想としましては、あの地味なスーツはかえって逆効果なのではと……」 「逆効果……?」 「何をお召になってもレオネ様の美しさは揺るぎません。しかしお召しになるものを地味なお色や庶民的な形にしますと、より親しみやすさが増し、『ひょっとしたら手が届くかも?』と思わせてしまうかと」  アンナの忠告にジェラルドは物凄く危機を感じ声を上げた。 「確かに!」 「は?」  声を上げたジェラルドを不審そうな目でレオネが見てくる。 「ですので、逆に最高にレオネ様に似合うスーツを仕立てて、完全なる『高嶺の花』にしてしまうほうがむしろ安全では無いかと思うのです」 「なるほど!」  ジェラルドは目の前が開けた感覚がした。  確かにアンナの言う通りだ。  レオネを最高に着飾らせて『バラルディ商会会長の妻だ!』と主張させた方がザコは寄ってこないだろう。 「君、来週来られるか? 生地サンプルを持ってきてくれ」  ジェラルドが早速そう言うとアンナは嬉しそうに「かしこまりました」と言った。 「いやいやいや、ちょっと待ってください! ジェラルド、貴方は倹約家じゃないですか。不要な物は買わないでください!」  レオネが慌てたように立ち上がり、二人に反論してきた。 「私は別にケチではないぞ。必要だと思う物にカネは惜しまない」 「いえ、必要じゃないです! アンナさんもジェラルドをカモにしないでください!」 「カモだなんて……私はお二人に最適な商品を紹介させて頂いてるだけですのよ」  アンナがにっこり笑ってレオネに言い、さらに思いついたように言葉を続けた。 「そうだ! ジェラルド様とお揃いで誂えるのはいかがでしょう? 全く一緒は少し気恥ずかしいかと思いますので、さりげなくお揃いにするんです! 形が一緒とか、裏地が同じ柄の色違いとか。いかがですか?」 「お、お揃い……」  レオネが急に反論の熱を下げ、ソファにゆっくり腰をおろした。  そしてチラリとジェラルドを横目で見てきた。 「じゃあ、お揃いで作るか?」  微笑みながらレオネに聞く。 「そ、そうですね。でも、今回は一着ずつだけですよ! 私も払いますし」  レオネは澄ました顔で言った。 「では、来週またお伺いいたしますわね」  アンナはニコニコしながらそう言った。  アンナにとってカモがもう一羽増えた瞬間だった。 完

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