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少年ロレンツの青い使命 [1]

「げっ、なんか変わってる……」  駅舎から出たロレンツは、その街並みを見渡し、自分にしか聴こえないくらい小さな声で毒づいた。  明らかに建物が増えている。それも格段に。  一昨年の夏休みに父母妹と共にこの地を訪れた時は、岩と砂しかない大地に建物がポツポツと点在しているだけの実に殺風景な街だった。その時もあちこちでなにやら工事はしていた気がするが、今や城のようなホテルに巨大な商店、洒落たレストランなどが一気に増えている。道路沿いにはガス灯が立ち街路樹も植えられ、街全体が格段に華やかになっていた。  キョロキョロと辺りを見渡していると、『ぬっ』と巨大な影が差した。 「わぁ……」  反射的に見上げると、巨大な飛行船が真っ青な空に浮かんでいる。それは巨体に似合わず雲よりも速い速度で通り去っていった。まるで空を泳ぐ巨大なクジラだ。  ふと周りを見れば、空を見上げているのは観光客らしき老夫婦とロレンツくらい。ほとんどの人は飛行船など気にすることもなく足早に通り過ぎていく。  ロレンツはなんだが自分が急に田舎者になったような気分になって、無性に恥ずかしくなった。 (こっちのほうがずっと田舎のくせに……)  ロレンツ・バラルディ。  ロヴァティア王国一の豪商、バラルディ家に生まれ、現在十四歳。  父ロランドは現バラルディ商会の会長。前会長である祖父ジェラルドは一線を退き、現在は飛行船事業を行う子会社で社長を務めている。ここロッカはその飛行船事業の本拠地だ。  十年前にこの地に完成した飛行船港の恩恵で、この街は急速に発展している。三年前には王都サルヴィから直通の鉄道も開通した。  いつかこの街は、自分の生まれ育ったサルヴィよりも発展しそうな気がして、ロレンツの胸に憎らしさがふつふつと湧き起こってくる。  今日、ロレンツは、いつも通り学校へ行くと言い家を出て、庭の園芸小屋に隠しておいたリュックサックを背負い、サルヴィ駅から汽車に乗り、ここロッカまでやってきた。服装は学校へ行くための薄灰色のセーラー服と半ズボンのままだ。 「よしっ!」  ロレンツは気を取り直し歩き出した。  タクシーに乗ってもいいのだが、この先のことを考えると節約すべきだ。  目指すは祖父ジェラルドの邸宅。  ロレンツはある使命を胸にここへやってきたのだ。  歩き始めて一時間。  やっぱりタクシーに乗れば良かったと、ロレンツは猛烈に後悔していた。  街並みが変わったせいか、祖父の邸宅が見つからない。そもそもいつも用意された車に何も考えずに乗っていたので、道自体がうろ覚えだ。  荷物を詰め込んだリュックサックが肩に食い込む。足も痛い。喉も乾いた。もう帰りたい。  セーラー服の襟と一緒に短い黒髪が風に煽られ暴れ回り、実に鬱陶しい。  ロレンツは自身の髪色が嫌いだった。どこへ行っても会う人会う人に言われるセリフ。 『まあ、お祖父様にそっくりね』  そう言われるのはきっとこの黒髪のせいだ。   父も母も妹のエレナも、皆茶色なのになぜ自分だけ黒髪なのか。どうせ違うなら輝くような金髪が良かった。  疲れたロレンツは知らない家のレンガ塀に腰を下ろした。塀は腰高でちょうどいい高さだった。レンガ塀の上は蔓薔薇の生け垣になっていて、そこに咲く白い可憐な花が目に映った。  その白い薔薇から、ロレンツの頭にはある人の顔が思い浮かんだ。  いや、今日ここへ来ると決めてから、ずっとロレンツの頭にあるのはその人ことばかりだった。

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