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少年ロレンツの青い使命 [2]
しばしの休憩、と思いその白い薔薇を眺めていると、奥に見える建物に既視感を覚えた。
「……あれ?」
よくよく見ればロレンツの目的地である祖父の邸宅だ。どうやら迷って正門ではなく裏側にたどり着いたらしい。
「なんだよ、もぉ~。良かったぁ~」
安堵しため息をついていると、生け垣の奥で人影が動いた気がした。
(もしかして……!)
ロレンツは生け垣の隙間からその人影を覗き見た。油断すると薔薇の棘が刺ささりそうになるが、さらによく見ようと茂みに顔を突っ込む。
生け垣の先は色とりどりの薔薇が咲き誇る美しい庭。その庭で麦わら帽子を被り黙々と作業している一人の人物が。
それはロレンツが幼い頃から恋焦がれ、思いを寄せている人物に間違いなかった。
「レオ……!」
愛おしいその愛称をひっそりと口にする。この呼び方を許されているのはこの世でロレンツだけだ。
レオネ・ロレンツ・バラルディ。
レオネに初めて会った時のことはよく覚えていないが、母曰く、ロレンツはすぐにこの金髪碧眼の美しい親戚のお兄さんが大好きになったらしい。
レオネはいつも優しく甘く蕩けるような笑顔を向けてくれ、『きっとレオも僕のことが一番好きに違いない』と幼いロレンツは思い込んでいた。
何より、ロレンツの名前はレオネのミドルネームから与えられたと聞いた。だから当然レオネにとってもロレンツは特別な存在のはずだ。ロレンツはそう迷いなく思っていた。
しかし、
『私が一番好きなのは君のお祖父様なんだ』
いつのことだったか。そう言われ、祖父ジェラルドの下に走っていったレオネの姿がロレンツの脳裏には焼きついていた。
レオネは男でありながら、ロレンツの祖父ジェラルドの後妻となった人だった。
大金持ちの家に生まれ、それなりに厳しく躾けられてきたロレンツだが、これまでの十四年間、本当に望んで手に入ってないものはレオネだけだ。
(レオネはきっと僕のものにする。いや、そうなるべきなんだ)
子供の頃はわからなかったが、成長するにつれ世の中の仕組みや、それに伴う理不尽さも少しずつ理解していった。そして重大な真実をも知ることになった。
祖父ジェラルドは、貴族であるレオネの伯爵位と領地欲しさに、レオネをカネで買い妻にしたのだ。つまり二人は政略結婚だ。
さらにレオネは『社交界のホワイトローズ』と称されほどの美貌の持ち主だ。祖父はその美しい薔薇と貴族の称号をカネの力で手に入れたのだ。
なんて汚いやり方だろう。そんな男の血が自分にも流れていると思うと虫酸が走る。
きっとレオネは誰かが助け出してやらねばならないのだ。レオネだってそんな日が来ることを待っているに違いない。
そしてそれは自分に課された使命であるとロレンツは思った。
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