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少年ロレンツの青い使命 [3]
視線の先、しゃがんで作業していたレオネが立ち上がり「うーん」と唸り腰を反らした。
作業用の簡素なシャツとズボン姿なのに、姿勢の良さや脚の長さからか、レオネはそれだけで魅力的だ。今は麦わら帽子でよく見えないが、美しい金髪と美しい風貌も携えている。
昔は髪を長く伸ばしていたらしいが、ロレンツは短い姿しか知らないし、短くてもレオネは十分美しい。
麦わら帽子から整った顔が覗いた。しかしその表情はやや険しいように見えた。腰が痛むのだろうか。
「レオネ」
その時、レオネの名を呼び近づいてくる人物がいた。
白髪の多い短髪に眼鏡をかけた長身の男。ロレンツの祖父であり宿敵のジェラルドだ。
「お茶にしよう」
にこやかにそう誘うジェラルド。
しかし、
「いえ。疲れてないので私は結構です」
レオネはその誘いをピシャリと断った。その声はあまりに冷たく、レオネのそんな声をロレンツは初めて聞いた気がした。
「レオネ……機嫌を直してくれよ」
ジェラルドが情けない声を出す。祖父のそんな声もロレンツが聞くのは初めてだ。
レオネはジェラルドを無視し、再びしゃがみ込むと作業を再開する。しかしジェラルドはめげずにレオネの隣に同じく腰を下ろし、身体を寄せて何やらコソコソとレオネの耳元で話し始めた。
話している内容までは聴こえないが、一方的にジェラルドが話していて、レオネはひたすら無視を決め込んでいる様子だ。
するとふいにジェラルドがレオネの耳朶を舐めた。
「わっ!」
レオネが驚きの声を上げ、無視していたジェラルドを睨んだ。するとジェラルドは好都合とばかりに、レオネの唇を奪うようにくちづけた。
「っ!」
ロレンツは悲鳴を必死に押し殺した。
大好きなレオネが、大嫌いな祖父にくちづけされている。
「ん……はぁっ……」
レオネの艶っぽい吐息が聴こえた気がして、ロレンツは身を強張らせた。
ジェラルドの勢いに押されレオネは尻もちをつき、そのレオネにのしかかるようにジェラルドがさらに迫る。今すぐ出て行ってレオネを助けなければ。
「もうっ、やめっ」
その時、レオネがうめき、ジェラルドを押し返した。レオネに押されて今度はジェラルドが尻もちをつく。
「そうやって、いつも誤魔化してっ! 私がなんで怒ってるか分かってないくせにっ!」
レオネはジェラルドに向かって怒りの言葉を投げつけると、園芸道具をかき集め、早足でその場を去っていった。
「はぁ~、やれやれ……」
一人残されたジェラルドは再び情けない声を出し、白髪頭を掻く。
ロレンツはそれを見て確信した。
(やっぱり……!)
レオネはやはりジェラルドと無理矢理結婚させられているのだ。そうに違いない。あんな剣幕で怒るレオネをロレンツはこれまで見たことがなかった。
その時だった。
「おい、あんた、何やってんだよ」
突然声を掛けられ生け垣から顔を離すと、直ぐ側に男が一人立っていた。
それはロレンツより少し年上に見える青年だった。
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