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少年ロレンツの青い使命 [4]
青年はどこかの使用人のようで、黒いベストを着ているが、そのボタンは中途半端に外され、中のシャツもよれている。さらに伸びかけの栗色の髪も無造作に適当に括ったようで、全体的にだらし無い印象だ。
(なんだ、こいつ……)
不審な目を向けていると、その男は無礼にもロレンツの手首を掴んだ。
「のぞきだな、この変態。来い!」
「なっ!」
そして男はロレンツの手を引き、強引に歩き始めた。
「は、離せっ! 僕を誰だと思っているっ!」
この地域に於いてバラルディの名を知らぬ者などいない。ロレンツは焦り怒り名乗ろうとした。しかし男はきっぱり言い捨てた。
「黙れ。変態野郎」
その無礼な男はロレンツの手を引き、グイグイとジェラルドの邸宅へと入って行く。
ロレンツは必死の抵抗を試みたが、体格差もあり敵わない。
「じいちゃーん、変質者捕まえたー」
「や、やめっ!」
大理石の床と磨かれた木製の壁が上品な色合いを放つ玄関ホールに、品のない男の声が響く。
「どうしたんです、大声あげて」
その声に呼ばれて早足で出てきたのは、ロレンツも昔からよく知る執事のドナートだ。
「これ、裏庭を覗いてた挙動不審なガキ」
「は? ……ロレンツ様?!」
ロレンツは男に突き出され、ドナートと目が合った。ドナートが裏返った声でロレンツの名を呼び、それを聞いた無礼な男は「は?」と小さく呟いた。
「ディーノ! この方はジェラルド様の孫のロレンツ様です。手を離しなさい」
ドナートの指示で男はロレンツを掴む手の力を抜き、ロレンツはその腕を振り払い男から離れた。
「ドナート、誰コイツ。お前の孫?」
掴まれていた手首を撫でつつ、嫌味を込めてドナートに尋ねた。
「ディーノは私の甥孫でごさいます。先月からこちらでお世話になっております。まだ立ち振るが未熟で申し訳ございません」
そう言われロレンツはディーノをジロジロと見た。
背丈はロレンツより少しばかり高く、脚も長い。顔をまあまあ整ってはいるが、服装や立ち方がだらし無く、上品な老紳士のドナートとは似ても似つかない。
「こんな野蛮な使用人がいたら、バラルディ家の名に傷が付くんじゃないか?」
「覗き見してる変態の方が汚名だよ」
「これ、ディーノ!」
ディーノのどこまでも失礼な態度に、ロレンツは頭の血管が切れそうになった。
「あれ……ロレンツ?!」
「レオ!」
その時、奥から出てきたレオネに声を掛けられ、ロレンツは満面の笑みで迷いなく駆け寄りレオネに抱き着いた。
「突然どうしたんだい?! 他の皆さんは?」
「僕一人だよ」
「ええ?」
レオネは驚きつつもロレンツを抱きしめてくれた。
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