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少年ロレンツの青い使命 [5]
久しぶりに会ったレオネは前よりも小さくなったと感じた。まだロレンツの方が少しばかり背は低いが、視線はもうだいぶ近い。
「一人で汽車に乗って来たのかい? ソニアは知ってるの?」
ロレンツは質問に答えず、レオネの肩口に額を乗せた。レオネからはいつもいい匂いかする。
説明をしないロレンツに、レオネは「困ったなぁ」と言いつつも背中を撫でてくれた。
「ロレンツか。どうした」
その時、もう一人から声を掛けられ、ロレンツはレオネの肩から顔を上げた。視線の先には祖父のジェラルドが。
「一人で来たそうなんです。黙って出てきたみたいで……」
レオネが身体をひねり、ジェラルドへ顔を向けるとそう答えた。レオネにそう言われたジェラルドはドナートに目配せし、ドナートは「本邸へ電話してまいります」と軽く頭を下げると奥へと入っていった。
さっき庭であんなに怒っていたレオネが、サラリとジェラルドと話す。その様子にロレンツの胸は軋んだ。
(レオネはこうやって、誰にも心配させずに耐えてきたんだろうか……)
そう思うとレオネの背中に回した手につい力が入ってしまい、それに気付いたからか、レオネが心配そうに顔を覗き込んできた。
「誰にも言わずに家を出てくるなんて……一体どうしたんだい?」
間近で見るレオネの顔。相変わらず輝く金髪と青い瞳が美しい。しかし、目元に細かな皺が入っていることに気づいで、ロレンツは少し残念な気分になった。それでもそのサラリとした手で優しく頭を撫でられると、胸の奥がホカホカと温かくなってくる。
「ジェラルド様、ソニア様がお話したいと」
するとドナートがジェラルドを呼びに来た。
ソニアはロレンツの母親だ。叱られる気配にロレンツは身構えた。
「ロレンツ、本当に何があったの?」
レオネが心配そうに再び尋ねてきた。
「……学校で、ちょっと嫌なことあっただけ」
ロレンツは嘘をついた。
本当はレオネを助け出しに来たのだ。だがすぐにジェラルドが電話から戻ってきそうなので今は言えない。なんとかレオネと話し、二人でどこか遠くへ逃げなければならない。
それはロレンツにとっては浅はかな計画ではないつもりだった。
背負っているリュックサックには母の宝飾品や父の懐中時計が入っている。これらを売ればレオネとしばらくは暮らせるはずだ。そして資金のあるうちにレオネと共に職を探す。レオネは貴族だけど働くのは好きだからきっと嫌がらないだろう。
小さな家で二人、わずかな使用人と共に慎ましく暮らすのだ。
ロレンツはその明るい妄想に浸っていた。
「ロレンツ、本当に黙って出てきたんだな。本邸は誘拐されたんじゃないかと大騒ぎだぞ」
電話を終えたジェラルドが肩をすくめながら戻ってきた。
「まあ男にはちょっとくらい冒険が必要だけどな。ソニアにあまり心配をかけるなよ」
ジェラルドはそう言うとロレンツの頭をワシワシと撫でる。その顔は孫を可愛がる祖父そのものに見えるが、ロレンツは『騙されるものか!』と思いジェラルドをこっそり睨んだ。
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