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「どうして羽を消したんだよ」
「座るとき邪魔だろ」
「そういうもん?」
「そういうもんだよ」
また見せてやるからと言って屋根に座ったヨウの隣に、俺もぴったりとくっついて座った。この家の屋根は崩れたりしないんだろうかと不安になるくらいの古さで怖くなる。
「ヨウ。手を繋いでもいい?」
「はぁ?」
「屋根が崩れたとき、手を繋いでたらヨウが助けてくれるだろ?」
「この屋根は簡単に壊れないよ」
ほら、と言って、急に立ち上がったヨウが、屋根の上で思いっきり足踏みをした。
「やめろよ!」
「大丈夫だって」
「うわっ」
やめてほしいのと怖いのとでヨウの足にしがみつくと、また一人で楽しそうに笑い始めた。再会したばかりのときとは違う。だいぶ俺に心を開いてくれているようだし、楽しいと思ってくれているみたいだ。俺の記憶が正しければ、ヨウと出会ったのは十年くらい前だから、そのときからこれまで、ヨウはずっと一人だったのだろうか。いつも、一人でここから花火を見ていたのだろうか。
「ヨウ……、やっぱり手を繋ぎたいな」
「怖がりめ」
「うるさいなぁ」
ん、と手を差し出すと、その大きな手で握り返してくれた。この歳になって、同性と手を繋ぐなんてヨウ以外だったら考えられない行為だけれど、それでもヨウとは手を繋ぎたかった。
「約束守ってよ。明日も明後日も、ずっと会ってくれるよな?」
「あぁ」
「俺の記憶をもう消さないでよ」
「……消さないよ」
ドーンと大きな音がしたかと思うと、空に鮮やかな花が咲いた。消さないと言うまでの間が気になったけれど、花火が始まってしまったからもう一度強く言えなかった。花火を見ているヨウの横顔がどこか寂しそうで、それがたまらなく気になったけれど、俺には繋いでいる手を強く握ることしかできなかった。
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