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第2話 希望の欠けら……?

 翔馬は、ため息をついた(っぽく見えた)。明良の足にじゃれつくというメリットがあるぶん、転生先はロボット掃除機のほうがマシに思えるのだ。  もっとも明良はスティッククリーナー派だから、使ってもらえる見込みは薄いが。  ただ、すこぶるマメな性格でも哀しみの淵に沈んでいるときは、掃除なんか二の次になるのは当然のこと。散らかしっぱなしのリビングルームの中にあって唯一、出窓の周りだけはきれいだ。  翔馬の写真を収めたフォトフレームを飾ってあるその前で、明良はぼんやりと何時間もすごす。打ちひしがれた姿が食器棚の延長線上にくる関係で、いっそう翔馬はやるせない。  おれを死なせた、なんて自分を責めるのはやめてほしい。明良は悪くない。元凶は運転しながらスマートフォンをいじってハンドル操作を誤ったドライバーと、SUVをよけそこなった、おれ。  めっきり瘦せた躰を抱きしめて、苦しみを分かち合いたいと願っても、カップ風情には到底不可能だ。一方通行に終始するのは、マイナスの要素だらけの片思いの何万倍も淋しい。  床に延びる影の長さから季節の移ろいを知る。そろそろツツジが花盛りで、だが本物に触れる機会は失われた。虚しさばかりがつのる明け暮れに、ある日のこと光が射した。 〈ごきげんよう。負のオーラを放って鬱陶しい新入りくん〉  翔馬は無視した。会話に餓えているせいで、鳥の鳴き声がそれらしく聞こえたに決まっている。違う、この部屋にあるが、テレパシーで接触を図ってきた。  と、テレビ台を兼ねたラックが定位置の、鉢植えのサボテンと視線が絡んだ(ふうだ)。見切り品だったのを丹精した甲斐あって、丸まる太ったそれの棘が一斉に震える。いわゆるドヤ顔めいて。 〈逆立ちしてごらん? お近づきの印にマル秘情報を教えてあげなくもないかもです〉  無茶ぶりがすぎる。ともあれサボテンにも人間の、それもイケズ系の魂が宿っているとみえて、 〈転生歴が長そうですね。よろしく、先輩〉  翔馬が下手(したて)に出ると、さんざんもったいぶってから言葉を継いだ。 〈よろしい、では、ほだされた(てい)で……〉  サボテン曰く、それは転生組の間で言い伝えられてきたチョー裏技とのこと。奇蹟が起こるのは人間界に限った話ではない。  発動する条件はそれぞれ異なるが、翔馬の場合は明良が通算一千回、このマグカップを使ってくれれば肉体を伴ったの命が与えられる仕組み──らしい。  十二時間後にタイムアップを迎えるまでは、推し活に励むのも、海底遺跡を調査するのも思いのまま、だという。

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