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第6話 おれが「してあげたい」のに……

〈一千回の魔法がチャンスをくれる。もういちど抱き合えるチャンスを!〉  ばりん、とカップが割れかねない勢いでまくしたてても虚空をたゆたうばかり。それでも暗示をかけるように、一千回、と繰り返す。 「おまえを笑顔にするのがモチベーション……生き甲斐がなくなっちまった」  翔馬が笑みくずれてカメラに収まっているぶん、喪失感という底なし沼にずぶずぶと沈んでいく──そうと物語るように眉間に皺がきざまれる。  そこでサボテンが処置なしと言いたげに肩をすくめた(ように棘が震えた)。 〈おやおや、熱視線をガン無視とは鈍感な。愛の絆とやらは存外にもろい〉 〈カップ、イコールおれ。想像できっこない、難癖をつけるな〉  天井灯が反射してカップの底にこびりついた(かす)が、ひと睨みしたさまを思わせて光った。  サボテンが沈黙した代わりに抜け落ちた棘が十数本、まきびしさながら床に散らばった。素足の、明良の動線上に。 「霊界にも通信基地局があれば、な。スマホとかでつながれるのにな……」  と、潤んだ声で写真に囁きかけながら、宝物を扱う手つきでフォトフレームを出窓に戻した。当の翔馬が転生組の先輩と至近距離でやり合っているなんて、それこそ想像しうるはずもない。 〈そうそう、エッチの最中も新入りくんがアレコレ指示していましたっけ。しゃぶってええん、ああん、()れてえ〉 〈ノーコメント!〉 〈つれないこと。後輩をからかうのは先輩の特権と心得て、寛容の精神を養いなさい〉  一理ある。翔馬としても〝ぼっち〟じゃないのは、ありがたい面がある。  雨垂れがメロディアスに響くなか、サボテンが素っ頓狂な声を張りあげるふうに、ひと揺れした。 〈ダーリンってば、なんとハレンチな〉  このとき翔馬は水切り籠に伏せられていた。水滴の助けを借りて、アイススケートの要領で籠の端までずれる形になると視界が開けた。折しも、こんな光景が繰り広げられる。  明良がソファに寝そべって、スウェットパンツとひとまとめにボクサーブリーフをずり下ろした。そして股ぐらに手を這わせる。 「……っ、翔馬……」  在りし日の、よがり狂う姿が脳裡をよぎったのだろう。ひとしごき、ふたしごきするにつれてペニスがみなぎっていく。  ハイブランドの腕時計以上に高嶺の花的な眺めだ。第一、生唾を呑み込むのさえ無理。花冷えのころまでは、と翔馬は思った。前戯を中断して、明良がこれ見よがしに自身をさすりながら、欲しいかと訊いてくるのは、お約束のひとつだった。  そっぽを向いても、鼻先に人参をぶら下げられたようなシチュエーションに内奥が疼く。結局、自らギャザーを解き伸ばして、いそいそと迎えにいった。

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