12 / 14

第12話 待って、待ち望んで……

 翔馬は、うなだれた。めでたし、めでたしが既定路線のお伽噺とは異なり、現実はシビアだ。最高のサプライズ! とキスの雨が降るに違いないなんて、甘い幻想を抱いたのが独り相撲に終わっただけ。 「とっておきのギャグがスベった? みたいな。どうも、お騒がせしました」  と、敬礼の真似事でおどけてみせた。衣服までは再転生の対象に含まれていなかったせいで、すっぽんぽん。タイムリミットまでどこかで時間をつぶそうにも、この恰好では表をうろつきしだい110番だ。  明良のスウェットスーツあたりを拝借しよう。そう思って寝室の電気を点けたとたん、きょとんとした。  ダブルベッドの右側、翔馬の定位置だったそちらを抱き枕が占領していた。寄り添って眠るのが夜ごとの習慣とみえて、枕カバー代わりに翔馬のTシャツをまとった、それが。  明良がベッドに歩み寄った。抱き枕をひと撫でして訥々と胸の(うち)を明かす。 「独り寝が淋しくて不眠症を患った。四十近いおっさんがキモい話だが、睡眠導入剤に頼っていたのが、こいつと添い寝をはじめて改善した」  迂闊に触れると蜃気楼のごとく、かき消えてしまう。だから、と言いたげにおずおずと手を握られた。 「魂消たからってのは言い訳にならない。残酷だなんて罵って、すまなかった。どういうカラクリかはともかく、おまえにもういちど会えてうれしい、うれしいどころじゃない」  うんうんと、うなずくのが精一杯だった。翔馬は広げられた腕の中に、すっぽりとおさまった。  渾身の力で抱きしめられて、抱きしめ返すと、百万回分の「愛している」を超える熱量で想いを伝え合う。  では愛の炎が燃え盛る場面での、唇と舌の正しい使い道は? もちろん、こうだ。  唇が重なるなり、先を競って結び目を解きほぐす。人類とカップ。種族が分かれたあとも恋心が薄れることはなかった。足かけ二年にわたって禁断症状に苦しめられたぶんも、狂おしく舌を絡ませる。  軽い酸欠に陥り、折り重なってベッドに倒れ込む。ペニスが萌し、いじってほしげに細腰(さいよう)がもぞつく。ジーンズの中心にしても、負けじとせり出す。 「シンデレラは午前零時の鐘が鳴るまで、おまえの持ち時間は半日……か。最善手はやりまくる。異論はあるか」 「つき合うに、やぶさかじゃないかもよ?」  くすくすと笑い、乳首をつままれて甘い吐息を洩らす。ああ、焦がれ求めた明良の香りに包まれている。  鼻をひくつかせるとペニスはしっとりと蜜をはらみ、ホウセンカの実さながら爆ぜた。 「おい、可愛がる暇もなかったぞ」  憮然と、そのくせ淫液をぬぐった指をしゃぶってみせるのは狡い。ねだりがましげに花芯が疼きだす。 「明良も早っ! だったりして」  股ぐらをつついてあげながら、うつ伏せた。十二時間を秒に換算すると、たったの四万三千二百秒。  一秒、一秒が難破船の真水より遙かに貴重だ。じっくりほぐしてから合体なんて、ちんたらしていられるか。

ともだちにシェアしよう!