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第23話
ぬち……っと濡れた音が微かに響いた。
レグラス様の舌が僕の舌に重ねられ、舐めるように蠢く。
ちゅ……ちゅっ……と音を立てて舌が絡まり、甘い痺れに似たナニかが背中を走る。
「っ、ぁ………っん、」
甘えるような、鼻にかかった声が抑えようもなく僕の口から洩れ出てしまった。
ーーち……治療、なのに……。
魔力を移譲する、という治療目的の口付けなのに、飢えを満たすように僕の口腔を執拗に嬲ってくるレグラス様の舌遣いに、ダメだと思っていても快楽が湧き上がってくる。
「ふ……、ま、待って、レグ……」
レグラス様の逞しい胸板に両腕を突っ張り、何とか距離を取ろうとするけど、その両手首をレグラス様は難なく片手で掴み拘束してしまった。
そして彼は角度を変え、更に深く口付けてきたんだ。
レグラス様の激しい舌遣いに二人分の唾液が混じり合い、じゅ……じゅる……っとはしたない音を響かせる。
ーーこのままだと、僕……っ
容赦無い口付けは、僕が息をつく間もなく続けられ、どんどん苦しくなってくる。それとは反して下腹部には甘い痺れが溜まっていき、直ぐにでもイってしまいそうなくらい昂ってしまっていた。
一際深くレグラス様の舌が差し込まれ上顎を愛撫される。
それがとどめとなって、僕は「っは……っ」と大きく息をつくのと同時に絶頂を迎え、自分の欲を吐き出してしまっていた。
「は……っ、はぁ……あ……」
ぎゅっと目を瞑り荒い息を繰り返していると、その呼気さえも吸い取るように、レグラス様は何度も唇を重ねてくる。
薄っすらと目をあけて間近にあるレグラス様の秀麗な顔を見てみると、未だ正気には戻っていない様子の、ギラギラとしたアイスブルーの瞳がじっと僕を見据えていた。
「ーーっ、」
でもその飢えた光を宿す瞳を見て、逆に僕はすっと頭が冷え、冷静になる事ができた。
そろりと、自分の魔官を意識して探ってみると、僕の魔力はごっそりと減っていた。
ーー魔力移譲は上手くいったみたい。
本来の目的が果たせて、僕はほっと胸を撫で下ろす。
ダレン様は僕の魔力が残り三分の一になったら、皮膚経由の移譲へ移るようにって言っていた。
でも、もうとっくにその域は過ぎていて、残りは五分の一か、それより少ない量しか僕の魔力は残ってはいなかった。
ダレン様は『その頃になれば閣下の意識もはっきりしてくるはずだからね』とも言っていたけれど、今のレグラス様を見るにまだまだ魔力が足りてないのか正気に戻った様子はない。
僕の唇に時折甘く歯を立てながら、何度も何度もライトな口付けを繰り返すレグラス様を見て、僕は困ってしまった。
ーー皮膚経由に変えてもいいのかな。レグラス様、まだ全然足りてなさそうだけど……。もう少し魔力移譲できそうだけど、口からの方が良いのかな……。
僕が逡巡している間にレグラス様は拘束していた両手首から手を離し、腰に腕を回してぐいっと引き寄せてきたんだ。
急の事に、僕はバランスを崩してレグラス様に倒れ込む。
それを軽々と受け止めたレグラス様は、そのまま僕を自分の膝の上に座らせると、がっちりと顎を掴んできた。
避けようもない状態で、もう一度唇を重ねられる。
たださっきとは違って性急さはなく、まるで愛撫するかのような甘さを含み、柔く僕の唇を刺激してくる。
まるで愛しい人に贈る心の籠もった口付けのようで、僕は少しだけ複雑な気分になった。
ーーレグラス様、好きな人にはこんな風に優しい口付けをするのかな……。
そんな事が一瞬頭に浮かんでしまい、僕は頭を振って不埒な考えを散らそうとした。
でも顎を固定されたままでそれも叶わず、僕はレグラス様の服を掴みぎゅっと目を瞑って、それ以上考える事を放棄した。
そうしている間にレグラス様の唇は僕の唇から離れ、頬から顎、首の横を辿り、シャツのボタンを外してゆっくりと下がってきた。顎を掴んでいた手も離れ、僕のシャツの裾から中へともぐり込み、背中をゆるりと撫で擦る。
「っ、んっ!」
時々静電気みたいなチリッとも、ビリッとも付かない痛みが背に走る。その度にビクッと身体を強張らせる僕を宥めるように、首と肩の間に顔を埋めたレグラス様が、ちゅ、ちゅっとその場所に口付けしてくる。
身体に与えられる、その何ともいえない刺激に、僕は身体の中心が再び甘く疼いてくるのを感じた。
「や……。レグ……ラス、さま……。も、や……です」
ダメだ。これ以上刺激されたら、もう治療だと言えなくなってしまう。
もっと刺激が欲しくて。
レグラス様が欲しくて、おかしな事を口走ってしまいそうだ……
。
甘い苦痛に顔が歪む。それでも何とか薄っすらと目を開き、首を振りながら拒否の言葉を口にした僕に、レグラス様はそのアイスブルーの瞳に不思議な光を宿して告げたのだ。
「可愛い可愛い私の猫。君は私のモノだ。これからずっと、永遠に……ね」
レグラス様の吊り上がる唇が笑みの形となる。
その顔を見て、僕はレグラス様の瞳に宿ったものが「執着」という名のモノだと、漸く気が付いたのだった。
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