30 / 90
第30話
国からも僕は必要とはされなかった。
レグラス様も、たまたま『僕』がそこに居たから利用することを思い付いただけで、魔力が豊富な人間だったら誰でも良かったんだろう。
こんなハズレ者を選ぶ酔狂な人間なんているはずがないのに、レグラス様が『ラス』様だと知ってちょっと期待してしまったんだ。
もしかしたら、レグラス様は『僕』だから望んでくれたんじゃないかって。
ーーそんな訳ないのに……。
正直に言うと、魔力目的と言われて落胆したし、誰でも良いのかもと思うのは凄く淋しい。
ーーでも、仕方ないんだ。僕はハズレ者だもの。
苦い気持ちが湧き上がるのをぐっと飲み込んで、僕はレグラス様ににこっと笑った。
『閣下は悪い方ではありませんが………。良い方とも言えません。あまり信用しすぎないように。常に気をつけて下さい』
『その理由が、貴方を苦しめないとも限らないんですよ。警戒は最大の防御だと言うことを忘れないで』
笑ってみせながら、頭の中でトーマさんの言葉がぐるぐる回る。
苦しくない。
苦しくなんて、ならない。
優しさに対価が必要だったとして、それは何も悪くないって僕は考えてたじゃないか。
だから、僕は感情を悟られないように注意しながら、気持ちを抑えてゆっくりと口を開いた。
「あのアーティファクトを外したら、また魔力が暴走して誰かを傷付けるかもって、僕は凄く怖かったんです」
紡ぐ自分の声が遠くに聞こえる。僕は自分の両手の指を組み、ぎゅっと強く握り締めた。
「だから、レグラス様が僕の魔力を利用してくれるなら、それが僕は一番有り難いです」
「っ、」
レグラス様は僕の言葉を聞いて何故か一瞬言葉を詰まらせ、そのキレイな顔を苦しげに歪めた。
それを、僕はじっと、ただ見つめる。
「……泣かないでくれ」
眉毛を寄せて、絞り出すようにレグラス様か言った。
「なく……?」
レグラス様の言葉の意味が分からない。
僕は泣いてない。
泣く必要なんて、ないもの。
「君を泣かせたい訳じゃないんだ」
きょとんと瞬いて僕が首を傾げると、彼は掌で僕の頬を包み込み、親指で目元を拭った。
そのレグラス様の行動で、僕は自分が大粒の涙を流している事に、漸く気付いたのだった。
「………」
思わず俯いて顔を隠そうとした僕の動きを、頬に当たるレグラス様の掌が止める。
「フェアル。何がそんなに哀しい?言ってくれ。そうしたら私は何でも君にしてあげよう」
ーーそれは魔力を譲り受ける対価としてでしょう?
なんて、口が裂けても言えない。
僕は……。
僕は、誰か一人、たった一人で良いから、僕自身を必要と言って欲しかったんだ。
ともだちにシェアしよう!