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第30話

国からも僕は必要とはされなかった。 レグラス様も、たまたま『僕』がそこに居たから利用することを思い付いただけで、魔力が豊富な人間だったら誰でも良かったんだろう。 こんなハズレ者を選ぶ酔狂な人間なんているはずがないのに、レグラス様が『ラス』様だと知ってちょっと期待してしまったんだ。 もしかしたら、レグラス様は『僕』だから望んでくれたんじゃないかって。 ーーそんな訳ないのに……。 正直に言うと、魔力目的と言われて落胆したし、誰でも良いのかもと思うのは凄く淋しい。 ーーでも、仕方ないんだ。僕はハズレ者だもの。 苦い気持ちが湧き上がるのをぐっと飲み込んで、僕はレグラス様ににこっと笑った。 『閣下は悪い方ではありませんが………。良い方とも言えません。あまり信用しすぎないように。常に気をつけて下さい』 『その理由が、貴方を苦しめないとも限らないんですよ。警戒は最大の防御だと言うことを忘れないで』 笑ってみせながら、頭の中でトーマさんの言葉がぐるぐる回る。 苦しくない。 苦しくなんて、ならない。 優しさに対価が必要だったとして、それは何も悪くないって僕は考えてたじゃないか。 だから、僕は感情を悟られないように注意しながら、気持ちを抑えてゆっくりと口を開いた。 「あのアーティファクトを外したら、また魔力が暴走して誰かを傷付けるかもって、僕は凄く怖かったんです」 紡ぐ自分の声が遠くに聞こえる。僕は自分の両手の指を組み、ぎゅっと強く握り締めた。 「だから、レグラス様が僕の魔力を利用してくれるなら、それが僕は一番有り難いです」 「っ、」 レグラス様は僕の言葉を聞いて何故か一瞬言葉を詰まらせ、そのキレイな顔を苦しげに歪めた。 それを、僕はじっと、ただ見つめる。 「……泣かないでくれ」 眉毛を寄せて、絞り出すようにレグラス様か言った。 「なく……?」 レグラス様の言葉の意味が分からない。 僕は泣いてない。 泣く必要なんて、ないもの。 「君を泣かせたい訳じゃないんだ」 きょとんと瞬いて僕が首を傾げると、彼は掌で僕の頬を包み込み、親指で目元を拭った。 そのレグラス様の行動で、僕は自分が大粒の涙を流している事に、漸く気付いたのだった。 「………」 思わず俯いて顔を隠そうとした僕の動きを、頬に当たるレグラス様の掌が止める。 「フェアル。何がそんなに哀しい?言ってくれ。そうしたら私は何でも君にしてあげよう」 ーーそれは魔力を譲り受ける対価としてでしょう? なんて、口が裂けても言えない。 僕は……。 僕は、誰か一人、たった一人で良いから、僕自身を必要と言って欲しかったんだ。

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