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第31話
多分、僕の思考と感情は手の施しようがないくらい乖離してしまっていたんだと思う。
泣く必要なんて欠片もなかったのに、勝手に期待して勝手に落ち込んでしまった僕は大馬鹿者だ。
僕の、どうしようもない魔力が、レグラス様のお役に立つのなら勿論嬉しい。
そして、ナイト公爵にとって『僕』という存在が有益だと知らしめれば、それは留学期間を終えて僕がこの国で独り立ちする際の基盤に繋がる。
それに、レグラス様へ魔力を定期的に移譲できるなら、魔力暴走を恐れる必要さえないんだ。
魔力の移譲は僕にとって有り難い事なのに、こんなに感情が乱れたのは僕の承認欲求が強いせいだろう。
一人ソファに座ったまま、窓の外をため息をつきながら眺めた。
「僕の我が儘でご迷惑かけちゃったな……」
あの後、泣き止むまでレグラス様は僕を抱き締めてくれていた。でも感情が落ち着いても、上手く言葉を紡げず黙り込んだ僕をレグラス様は気遣ってくれて、少し休むようにと告げて部屋を出ていった。
その後ろ姿を見送り、パタン、と閉まる扉の音を淋しく聞く。
ちらりと、誰もいなくなった室内を見渡してみれば、しん……と静まり返った空間に、より淋しさが募ってしまった。
僕はのろりと立ち上がると、出口である扉に近付く。
ここは多分レグラス様のお部屋だ。
とすれば、この隣が僕に割り当てられた部屋だったはず。少し前にサグに教えて貰った部屋の位置を頭に思い浮かべながら、僕は部屋の扉を開けた。
部屋の主がいないのに、その場所で休むのは気が引けるし、落ち着かない。かと言って隣の自分の部屋に帰るのも気が乗らなかった。
僕は重怠い身体を叱咤しながら、アテもなく公爵邸の広い廊下をトボトボと歩いた。
起きた時には力が入らなくてガクガクしていた身体も、少し回復したのか歩く分には問題はない。
暫くゆっくり歩いていると、屋敷の端に辿り着いていたしまったのか、突き当りに一つの扉が見えた。
赤みががった茶色の重厚な扉は、丁寧に手入れされているのか艷やかに輝いている。扉の横の壁には「図書室」と刻まれたシルバーのプレートが飾られていた。
母様との少ないの思い出の一つが、ネヴィ家の図書室だった僕は、ちょっとだけその場所に心惹かれて、そっと扉を開けてみた。
ふわりと紙とインクの匂いが漂う。
その凄く落ち着く香りに誘われて、するりと中へと身体を滑り込ませた。
図書室には誰もいないのか、中央にある広い机の上のランプには一つも灯っていなかったけれど、高い位置にある明り取りの窓のお陰で散策できるくらいの明るさはあった。
ナイト公爵邸の図書室は、机がある中央部分が二階まで贅沢に使用した吹き抜けになっていた。
四方の壁には床から天井まで届く本棚で埋め尽くされている。二階部分には回廊があって、その壁にも棚が設置してあり、隙間なく書籍が納められていた。
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