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第34話

 彼がこの帝国で頼れる所はない。  そして聡い彼は、もう自分がアステール王国に帰れない事も分かっているはずだ。  だから、絶対にこの邸内にいるはず……。そう思うが、フェアルが居なくなった事実に焦燥感を煽られた私は、足音も荒く彼を探し始めた。  猫の獣人である彼は、その性質が強く出ているのか意外な場所を好む傾向にある。それを踏まえて、私は彼が行きそうな場所を一つずつ探し、図書室のカウンター下という場所で彼を発見した。  その場で眠る彼は、決して穏やかな顔ではなかった。 「君には穏やかに過ごして貰いたいと願っているのに、な」  ひっそりと囁きもう一度頬を撫でてみると、今度は彼は嫌がる素振りをみせなかった。  君に心の安寧を齎したいと願うのと同じくらい、私の手元から逃げていかないように閉じ込めたいとも思う。  この執着心が可怪しいし事くらい、自分で分かっていた。  それでも、彼への執着を抑えるつもりはない。  抑える事ができる程度の思いなら、そもそも私が留学したあの時に彼を帝国に連れて帰ろうなどと考えなかったし、今回みたいにアステール王国に圧をかけてでも彼の身柄を奪う事はしなかった。 「レグラス様……」  軽いノックの後、ダレンが静かに部屋に入ってきた。 「フェアルの様子はいかがですか?」 「……また眠ってしまった」  短く答えると、ダレンはすっと私の隣まで来て、眠るフェアルの顔を覗き込んだ。 「ーー診察しても?」  その問いに頷いてみせると、ダレンはフェアルに手を翳し微かな声で術を唱えた。  暫く手を翳した状態でフェアルを観察していたダレンは、やがてその手を引っ込めてため息をついた。 「あのアーティファクトで魔力を抑え込んでいた影響でしょうが、彼の身体の中はボロボロです。そして今はあのアーティファクトを取り外して一気に解放された己の魔力で、更に身体を傷付けています」 「……つまり?」 「この極限状態の身体では、寝ても身体は休まらないし、食べても身体の糧になることはありません」 「どうすればいい?」  結論を求めてダレンに目を向けると、彼もまた私をじっと見ていた。 「彼の魔力を毎日閣下に移譲すれば、時間はかかりますが元気になるかと」  そのダレンの言葉に、私は訝しげに顔を顰めた。  勿論、私の特殊な身体的にはフェアルの魔力を移譲する事に異論はない。寧ろそれによって私の体調が改善するのだから、こちらから願いたいくらいだ。  そもそもフェアルを手に入れようと考えた理由の一つでもある。  だがフェアルにとっての利点が思い当たらなくて、私はダレンを見る目に力を籠めた。  するとダレンは私を見て呆れたような顔になった。

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