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第35話

「閣下も私と同じ魔法師ですよね? 何で分かんないんですか……」  その言葉に私が彼をはっきり睨むと、ダレンはやれやれとばかりに頭を掻いた。 「これが、恋は盲目ってヤツですか。ま、いいや。フェアルは幼い頃からアーティファクトで魔力を抑え込んでいましたよね?」  その言葉に頷いてみせると、ダレンは右手の人差し指を立てた。 「いいですか? 魔管のサイズは生まれつき決まっていますが、身体の隅々に魔力を運ぶ魔筋は、身体の成長と共に大きく丈夫に発達するんです。勿論、その発達には己の魔力を全身に流しながらって注釈が付きます」 「…………そうか」  流石にそこまで言われて、私も気が付いた。  魔力持ちは身体の成長と共に魔筋を発達させ、そして同時に魔力のコントロールを身に着けていく。  しかしフェアルは七歳の時に魔力を封じられたため、今の彼の魔筋は七歳当時のままだ。  身体の成長に追いついていない状態で魔力を全身に巡らせるのは、例えて言えば小川に大河の水を流し込むようなもの。  水圧に耐えかねて川岸は決壊するし、周りにも甚大な被害を及ぼす。  今、フェアルの身体は川岸が決壊した状態だ。  これでは寝ても疲れは取れないし、食べても身になる筈がない。 「フェアルの魔力を閣下に吸い取って貰って、少量の魔力を身体に巡らせる所から始めた方が良いでしょう。少しずつ残す魔力の量を増やしていけば、フェアルの魔筋も年相応に発達します。そうすれば身体も丈夫になるはずですよ」  そう言われて、私は眠るフェアルを見下ろした。  彼は魔力が暴走する事を恐れているし、魔力がコントロールできない自分を不安に思っている。  それを解決できるなら、きっとフェアルは心から笑えるようになるはず……。  そして私とフェアルの間で魔力移譲することが、双方に利点があると知れば、彼の気持ちも少しは楽になるだろう。  そう考えていた私に、ダレンは冷ややかに言葉をかけた。 「閣下、フェアルを何故帝国に……いや自分の手元に囲い込んだのか、ちゃんと説明したんですか?」 「…………」  答えに私に、ダレンは大きな声をあげた。 「バカですかっ! フェアルはまだ十七歳、成人前の子供ですよ!? 貴方だって留学する時には多少なりとも不安はあったでしょう? 説明を受けることができた貴方ですら不安を持つなら、何も説明を受けていないフェアルがどれほど不安になるか分かりなさい!」 「話そうとは思っている」  正確には話そうとしたらフェアルが涙を流して、中断してしまった訳なのだが……。 「じゃさっさと話してしまいなさい! 話さないと魔力移譲の開始は認めませんよっ!」  珍しく声を荒げるダレンは、有言実行とばかりに眠っていたフェアルを自分の腕の中に抱き締めたのだった。

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