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第44話

「おや、フェアル、大丈夫ですか?」  客間にガラガントさんと一緒に入ってきたダレン様は、ソファに座って満腹のお腹をすりすりと擦っている僕に心配そうな声をかけてきた。 「はい、大丈夫です。少し食べ過ぎてしまって……」  食べ過ぎで苦しいなんて恥ずかしいな……と微苦笑を浮かべながら言うと、ダレン様は何かを察知したのか、僕の隣に座るレグラス様へ冷ややかな目を向けた。  でも敢えて何も言わず、ガラガントさんと共に僕達の向かいの席に腰を下ろしす。  でも、こんなにお腹いっぱい食事をしたのはいつ以来だろう……。  少ない量の食事でも消化不良を起こすのか、食べた時の胃の痛みが悩みとなっていた僕は、アステール王国を出るこる頃には食べるか食べないかの生活を送っていた。  でも今日の食事は本当に美味しかった。  沢山盛られたワンプレートディッシュも、手をつけてみるとするすると入っていく。  美味しいのも理由の一つだけど、なにより胃が全然痛くならなかったんだ。  お陰でレグラス様の言いつけ通り、料理を完食することはできた。 「胃は痛くない?」 「痛くないです」  ダレン様の質問に答えて、僕は「あれ?」と瞬いた。  ダレン様に胃の痛みについて説明した事はないのに、何故知っているんだろう?  そう思っていると、ダレン様は手に持っていた診療用バッグから小さな紙の包を取り出して僕へと差し出した。 「これを飲んで」  素直に受け取って開いてみると、乾燥させた生薬を粉にした物が包まれていた。  僕があまりに不思議そうな顔をしていたせいか、ダレン様が理由を教えてくれた。 「それ、胃薬だよ。通常身体は栄養と魔力を隅々まで行き渡たらせながら成長する。でも君は随分長い事魔力を抑えられてきただろ? だから身体がきちんと成長していないし、内臓も弱い。今まで食事を摂るのも辛かったんじゃない?」 「はい」  僕が頷くと、ダレン様はサグに水を準備させて僕に薬を飲むように促した。 「元凶のアーティファクトは外したけど、今度は君の多すぎる魔力が未発達な魔管を通り、内臓を傷付けながら流れてしまっていた。だから閣下に、君の身体が耐えられるだけの魔力を残して、あとは吸い取るように促したんだ。食事、美味しく食べられたでしょ?」  僕は生薬をゴクンと飲み込んで頷いた。 「凄く美味しかったです。あんなに美味しい食事、初めてです」  楽しかった食事の時間を思い出しながらそう言うと、ダレン様は優しく目を細めた。 「なら良かった。でもね……」  言葉を切ると、ダレン様はレグラス様に冷たい目を向けた。 「何事にも順序があるんですよ、閣下。貴方が食べさせたいと思う気持ちは分かりますが、胃を慣らしながら、食べる量を増やさせるべきでしょう」  ピシャリとレグラス様を叱っている。流石にレグラス様も悪いと思ったのか、僕の顔を申し訳無さげに覗き込んできた。 「すまない。君の魔力さえ調整すれば、あの量は食べられると思ったんだ」 「大丈夫ですよ。ちょっと多いかなって思うくらいだったし。実際食べきる事ができましたし」  流石に無理そうなら、断るくらい僕にもできる。でもそうしなかったのは、久々に食事が美味しそうに思えたからだ。  そんな思いで言葉を口にすると、今度は僕にダレン様のお叱りの矛先が向く。 「フェアル、君はまだ自分の身体をちゃんと認識できていないんだから、ほどほどから始めなさい」  僕とレグラス様、揃ってダレン様のお叱りを聞く羽目となってしまった。

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