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第46話

 それから話が進むのが早かった。  僕が魔法陣学を学びたいと希望した後、レグラス様は改めて僕の学力をチェックして、学院で学ぶ一般教養の授業と、特別学科の授業を選んでくれた。  そしてガラガントさんに依頼して、僕の分の硝子ペンを強化してくれた。ペン軸の持ち手の部分に薄い透明のジェルシートのような物を貼って、爪が食い込まないようにしてくれたんだ。  学院に編入するまで日にちがないからと、あらゆる準備がものすごい勢いで進んでいった。  そして、学院編入まであと一日となった日の夜、僕はレグラス様の自室に呼ばれた。  夕食も済み、お風呂にも入って、寝支度も済ませていたから、呼ばれた理由が分からなくて首を傾げてしまう。  そんな僕に、ソルが「そのままの格好でいいよ」と言ってレグラス様の部屋へと案内してくれた。 「ああ、来たか……」  白いシャツにスラックスのラフな格好でソファに寛いでいたレグラス様は、訪れた僕に目を留めるとソファに座るように促した。  僕はそれに応じて、レグラス様と向かい合う様に、そのふかふかなソファに腰を下ろす。  サグが冷たいハーブティーをローテブルにセットして、ソルと共に退室していった。  パタンと扉が閉まる音が聞こえた後、レグラス様はゆったりと口を開いた。 「編入まであと少しだが、緊張はしてないか? 聞いておきたい事があれば、なんでも言うといい」 「緊張は……大丈夫です」  色々慌ただしくて、緊張する暇もないというか……。今の所、大丈夫そうだ。  それより、レグラス様にお願いしたい事があった。 「あの、先日話に出た魔法陣学なんですが……。やっぱり一般教養や他の特別学科と並行して学べませんか?」  そう、学院編入後の授業を組む際、レグラス様は魔法陣学の授業を半年先から受けるように設定したんだ。  僕が帝国で学べる期間は二年だけだから、早く取り掛かりたい。だからそう希望したけど、レグラス様は首を横に振った。 「君の、魔力を流しながら描き込む魔法陣の活用については、一旦保留だ。まず魔法学を基礎から学び、魔力制御を訓練してから考えよう」 「でも……」  更に言い募ろうとした僕を、レグラス様は手で制する。 「焦ってはいけない。君の身体は、今から魔管を発達させて整えなければならないんだ。今のまま無理に頑張っても、身体を壊すだけだ」  そう言われると、僕には反論できない。渋々頷く僕に、レグラス様は、顔を覗き込みながら説明してくれた。 「魔力制御を正しく身に着けていないと、同じ魔法陣を描くにしても、込める魔力の量が変わってしまう。そうなると一枚一枚の魔法陣の効果が変わる。それでは売り物にならない」 「売り物……ですか?」  何の話だろうか、と首を傾げていると、レグラス様は口の端で小さく笑んだ。

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