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第47話
「そうだ。ガラガントも言っていただろう? この国で独り立ちしたいと思うなら、魔法陣学を学んで損はない、と。あれは、君が描いた魔法陣で商売ができるという意味だ」
そうレグラス様に言われて、僕はぱちぱちと瞬く。
「でも魔法陣って既に売ってありますよね?」
あの時に描いた着火の魔法陣や、ライト効果、保冷効果に暖房効果……。生活を快適に過ごすための魔法陣は、それこそ沢山種類があるし、色んな商店が売りに出している。
それを先日レグラス様と街に出た際、僕は目にしていた。
特に帝国は人族の国。
獣族の国であるアステール王国と比べると魔力が少ない国民が多いし、その分魔法陣が多く普及しているように見えた。
「通常の物は量産されているし、普通に手に入るな。ガラガントや私が君に勧めるのは、オーダーメイドのものだ」
「オーダーメイド、ですか?」
「そうだ。まぁ今は難しく考えなくていい。魔法陣学を学び始めたら考えよう」
そう言うと、レグラス様は一旦口を閉じた。
そしてゆっくりと立ち上がると、僕の隣へと移動してきたんだ。レグラス様が腰を下ろすと、座面がゆっくりと沈む。少しレグラス様の方に傾いた身体を立て直そうとした時、彼の手が僕の肩に乗せられた。
「……フェアル、今日の分の魔力移譲を済ませようか」
潜められたレグラス様の声に、ドキっと胸が大きく鳴る。
ーーそういえば、今日は朝からレグラス様はお出かけになっていて、夕食までお戻りではなかった……。
今日の魔力移譲が済んでいない事には気付いていたけれど、今日は移譲せずに様子を見るのかと思っていた。
僕は少し緊張してしまって、ソファの座面に着いた手をきゅっと握り締める。
ここ数日で進められた準備の中に、レグラス様への魔力移譲の事も含まれていた。
いつ、どのタイミングで、どのくらいの量を移譲するのがベストか。それをダレン様と話し合いながら調整していんだ。
僕の肩に手を乗せたまま、レグラス様は僕の返事を待っているのか、じっとアイスブルーの瞳で僕を見つめている。
その瞳を見つめ返して、僕は小さく頷いた。
「……いい子だ」
肩に乗せた手はそのままに、反対側の掌で僕の頬を包み込むように覆う。
「緊張、している?」
「ーー少し……」
少し顔を俯かせて返事をすると、レグラス様が「ふっ……」と小さく笑う気配がした。そろりと視線を上げてレグラス様に目を向けると、彼はゆるりと目を細めて両腕を大きく広げた。
「フェアルには、先ず触れ合いに慣れてもらおうか。ーーおいで」
何を言われているのか分からない。
レグラス様の顔を見て、彼の腕へ視線を流す。広げられた腕の右に、左にと目を向けて、僕は困惑してもう一度レグラス様に視線を戻した。
僕の反応を窺っていたのか、楽しげな光を灯したアイスブルーの瞳とかち合った。
「おいで……っていうのは、こういう意味だ」
そう言うと、レグラス様は僕の腕をグイッと引き寄せる。
バランスが取れなくて、僕はそのままレグラス様の胸に飛び込むように収まってしまっていた。
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