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第49話

「ふ……」  レグラス様の唇がわずかに離れて、彼が笑う気配がする。 「っ、ぁ……」  気持ちいい刺激がなくなって少し淋しくなったけど、そんな僕の気持ちに気付いたのか、レグラス様がもう一度喉をひと撫でして言った。 「ーーフェアル。今、どの程度魔力が残っているか分かるか?」  その言葉にはっと我に返る。  つい夢中になってしまったけど、これは魔力を移譲するための行為だ。僕がこんな風に気持ちよくなってちゃいけない。  慌てて自分の胸に手を置いて探ってみると、ちょうど半分の魔力がなくなっていた。   「はん……半分残ってます」  レグラス様に与えられた刺激は、舌にほんの少し甘い痺れのような余韻を残している。上手く呂律が回らなくて、言葉を噛みながら報告すると、レグラス様は顎を掴んでいた手を離し、唾液で汚れた僕の口を指でぐいっと拭った。 「……キスは嫌ではなかったか?」 「ち……治療なので、嫌とかそんなのは……」  僕の反応を見逃さないように、真剣な眼差しのレグラス様は僕をじっと見つめる。  その眼差しの強さに、少しだけ居心地の悪さを感じながら僕が答えると、レグラス様は静かに首を横に振った。 「違う、フェアル。嫌なら経皮移譲に変えればいいんだ。治療だからと我慢するべきじゃない。嫌ならそう言うんだ」  そう言われて、僕は困ってしまった。  だってレグラス様との口付けは、その……とても気持ちが良いから……えっと、正直に言うと、「嫌じゃない」って言うより……むしろ、好き。  勿論、魔力をごっそり移譲するから、口付けの後は身体がずっしりと重くなる感じはするけど、それを差し引いてもレグラス様との口付けは好きだと思える。  でも「気持ちが良いから好きです」なんて言えるわけもない。俯いて答えあぐねていると、「っふ……」とレグラス様の笑う声が聞こえた。  なんだろう? と顔を上げると、彼は自分の腕に目を向けて機嫌良さげに呟いた。 「成る程、確かに嫌ではなさそうだ」  その言葉に、レグラス様の視線を辿って僕もそこを見てみると……。  レグラス様の腕にぴったりと巻き付いている、僕の尻尾があった。 「………っ!!!?」  それを見て、僕は内心で大混乱だ。  だって猫が相手に尻尾を巻き付けるのって「大好きだよ」って愛情表現なんだもの!  気持ちに正直に反応する尻尾が憎い……。  僕は恥ずかしくて、思わず顔を両手で覆ってしまった。

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