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第53話

 その言葉に、私は淡々と頷いた。  この場合の陛下の「頼み」とは、冷酷無残な公爵への仕事の依頼を意味する。だからこそ、他者が絶対に侵入できない私室へと私を招き入れたのだ。 「コストリア伯爵家が不穏な動きをしているらしい。それを君に調べて欲しいんだ」 「コストリア……。ああ、最近アステル王国とやたらとコネクションを持ち始めた家門ですね」 「そうだ。特に最近はネヴィ公爵家と懇意にしているらしい」  そう言われて私の眉が微かに動く。  フェアルの実家と懇意、それだけで既に不穏な気配しかない。 「コストリア伯爵は帝都に滞在中ですか?」 「いや、伯爵自身は領地にいる。しかしあそこの次男がタウンハウスに滞在中だ」  そう言われて私はすっと立ち上がった。  コストリア伯爵家の次男は放蕩の限りを尽くす問題児と聞く。その放蕩の結果、その身が朽ちても不審には思われないだろう。  スタスタと歩き始めた私の背に、陛下が声を掛けてきた。 「レグラス公爵。君の力を使う許可を出す。伯爵家を調べてこい」 「許可など頂かなくても……」  脚を止めて、顔だけ僅かに後ろを向ける。 「私は既に独自の判断で魔力を奪ってよいと許しを得ていますよ、前皇帝陛下にね」 「知っているさ。ただ今回に限っては、私の命令で動いた……という形にしておいた方がいい。なにせ君の魂の半身である子の実家が関わっているのだからね」  ぱちんとウインクする陛下を胡乱な眼差して一瞥すると、私はそのままその場を後にした。  陛下に依頼された仕事は非常に呆気なく終了した。  享楽に耽る者ほど堪え性がないというのは事実らしい。  コストリア伯爵家の次男は、私がヤツの魔力を奪い始めた直後にあっさりと口を割った。  それでも洗い浚い吐かせるために、耳障りな悲鳴を上げる男から魔力を奪い尽くす。  そうしてコストリア伯爵家の情報を仕入れた私は、痛みのあまり正気をなくした男をその場に放置して帝城へと戻った。  そして陛下との謁見を済ませて帰宅し、フェアルとの時間を設けてみれば、まさかあれ程婚姻の話に食い付くとは。  フェアルもアステル王国の出身、獣族の一員だ。  異性婚が当たり前の世界で育った彼は、同性婚に忌避感を抱くかもしれないと思っていた。  しかし、私との口付けで、あまりに可愛らしい反応を示す彼に、つい心配になって忠告した結果がそれだ。  しかも、どう考えても私を婚姻の対象とは見ていない。  さすがに私もこのままではダメだと感じて、フェアルに宣言したのだ。  ーー私だけの猫。君がそのつもりなら、私も人族のやり方で進めさせて貰おう………と。  私の可愛い可愛い猫。  君を見付けたあの時から、君は私のモノだ。  私以外を見る事など、許せるはずがない。  君がそのつもりなら、私も容赦なく君を追い詰めていくことにしよう。  何故なら、君が私の最愛なのだから……。  

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