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第54話

 一頻(ひとしき)り口付けが続き、漸くレグラス様の唇が離れた時、僕の息はすっかり上がってしまっていて(せわ)しく呼吸を繰り返していた。  口付けの間にレグラス様に魔力を持っていかれたのか、身体がずっしりと重い。  レグラス様のシャツの胸元を掴かんでなんとか態勢を保っていた僕を、レグラス様はひょいっと軽々と抱き上げて、隣の寝室へと移動した。 「っ、レ……レグラス、様?」  何となく苛立っている雰囲気のレグラス様を見上げながら呼びかけると、彼は僕へと視線を下げてその雰囲気を緩めた。 「人族のやり方で進めるとは言ったが、君の気持ちを無視するつもりはない」  そう言うと広いベッドに僕を下ろして、レグラス様もベッドサイドに腰を下ろした。よく分からない緊張に身体を強張らせる僕の目元を親指で撫でると、彼は僕の顔を覗き込んだ。 「何もしない。ただ君の魔力がまだ残っている。ダレンに朝まで五分の一にしておけと言われただろう? 休息を取っている間に回復してしまう分もある。夜はくっついて寝るぞ」 「ーーく……くっついて?」 「そうだ。ダレンとも相談して、寝ている間に皮膚を経由して、君の魔力を貰うことになった」 「皮膚を経由……」  レグラス様の言葉を繰り返す。確かに皮膚も呼吸しているから、皮膚を経由して魔力の移譲は可能とは聞いている。  でも経皮はチリッとした痛みを伴う。  以前に経験した痛みを思い出して、僕は「眠れるかな……」と思ってしまった。  だけど、本当の問題はそこじゃない事に、その後のレグラス様の行動を見て気付いた。  僕の目元を撫でた手をゆるりと下ろすと、レグラス様は僕の寝衣の襟元に手を掛ける。  その手の動きにつられて僕も視線を下げて見てみると、レグラス様の手は僕のシャツのボタンに伸びた。 「……レグラス様?」  くっと軽くシャツを引っ張られる感覚のあと、ボタンが一つ外される。 「あの……?」  何で次々にボタンが外されていくのかが分からなくて、僕はすっかり困惑してしまった。  そうしている間にもボタンは外されていく。やがて全てのボタンが外され、素肌があらわになった。  じっと胸元を見つめるレグラス様の視線が痛い。  その視線に落ち着かない気持ちになった僕は、そろりと腕を上げて、前身頃を合わせて肌を隠そうとした。  その手をレグラス様の片方の手が押し留める。  そして、もう片方の手がシャツを掴んで、そっと後ろに引いた。 「ーー皮膚を介した魔力移譲は痛みが伴うと説明したな」 「はい……」  静かなレグラス様の声に僕が頷くと、彼は少しだけ目を細めた。 「口で行う呼吸と比べると、皮膚の呼吸は微々たるものだ。その微小な呼吸口から魔力を一気に奪うから、激しい痛みを生じる」  そう言いながら、シャツから僕の腕を引き抜いてしまった。

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