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第55話

 上半身裸になった僕は、どうしていいか分からずにうろうろと視線を彷徨わせる。  そんな僕を見つめながら、レグラス様は自分の袖を捲り上げて、前腕を僕の胸元に押し当ててきた。  ジワリと肌が触れ合った部分が熱を持つ。  暫く様子を見ていた僕はふと気が付き、レグラス様の腕が当たっていない部分に自分の手を置いてみた。 「ーー減ってる」  そう、さっきよりもほんの少しだけ魔力が減っていたんだ。  でも、痛みは全くない。ただほんの少し熱く感じるだけ。  ぱっと顔を上げてレグラス様を見ると、彼はほんのり口の端を上げた。 「どうして痛くないんですか?」  前にレグラス様が皮膚から魔力を吸った時、確かにチリチリと不快な痛みがあったのに、と不思議でならない。  ぱちくりと瞬いていると、レグラス様は僕の胸元から腕を引いた。 「さっきも言ったが、痛むのは一気に奪うからだ。口からする時の様に、互いの呼吸に合わせて移譲すれば痛みは生じない」 「呼吸に合わせる?」 「君の皮膚が呼吸するように、私の皮膚も呼吸をする」 「……つまり?」  僕が首を傾げていると、レグラス様は「つまり……」と言いながら、自分のシャツも手早く脱いでしまった。  あらわになったレグラス様の上半身は、美しい筋肉に覆われて締まっている。思わず目が釘付けになっていると、レグラス様は僕の腕を引いた。  すっかり油断していた僕は、引かれるままレグラス様の胸元にすっぽりと収まってしまう。  さっきのソファと同じ状況に目を白黒させていると、僕を腕に閉じ込めたまま、レグラス様がくすっと笑った。 「だから言っただろう? 先ずは触れ合いに慣れてもらう、と。口を介して大部分の魔力を貰って、後はこうして触れ合って魔力を貰うことになる」  僕の耳元で、囁くようにレグラス様が言葉を紡ぐ。  耳にかかるレグラス様の息が擽ったくて、僕は思わず首を竦めた。 「この触れ合いで移譲できる魔力は多くはないが、一晩かけてゆっくりと移すから身体への負担が少ない。そして緩やかな移譲をする事で、私が魔力酔いを起こす事もないし、君が魔力を枯渇させて発情する事もない」  つまりは、良い事づくしって事ですね?  それはいいんです、それは……っ。  でも、何ていうか……その……お互い裸でくっついているのが、凄く恥ずかしいんですけど……。  自分の心臓がバクバク煩いくらいに鳴っているのが分かる。  ギュッと目を閉じて身体を強張らせていると、僕を腕に抱いたまま、レグラス様はぽすっとベッドに倒れ込んだ。  ふかふかのベッドが、僕達の身体を優しく受け止めてくれる。 「そして私は可愛い猫を抱いて眠る事ができる。実に良い事ばかりの処置だな」  僕の頭にキスをしたのか、チュッとリップ音が聞こえる。 「……いい夢が見れそうだよ、フェアル」  嬉しげなレグラス様の声に、僕の耳は力なく倒れてしまう。  レグラス様がいい夢を見れるのは良い事だけど、僕は眠れそうにありません……。

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