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第57話

 ぱちりと目を覚ます。既に陽は高くなっているのか、部屋の中は明るい陽射しが射し込んできていた。  ゆっくりと起き上がると、僕は耳をピクつかせながら辺りを見渡す。ミッドナイトブルーの調度品で整えられたこの部屋は、レグラス様の部屋だ。 「--あ」  昨夜のことを思い出して、僕は慌てて後を振り返る。でもそこには既にレグラス様の姿はなかった。  ふと見下ろすと、寝る前に脱いだはずのシャツはきちんと着せられていて、ボタンもちゃんと留めてある。ここまでしてもらったのに、全く目が覚めなかった自分が信じられなくて、ぱちぱちと何度も瞬いてしまった。  今朝の目覚めは凄くスッキリしていて爽やかだ。  これってやっぱり魔力をレグラス様に渡して、身体の負担が減ったからだろうか?  そう思うと、昨夜の恥ずかしさも少し薄れる。ーーでも。 「……でも、レグラス様がいないのは……ちょっと淋しい、な」  昨夜のレグラス様の身体の温もりを思い出して、僕は思わずポツンと呟いてしまった。  その時、コンコンと扉がノックされる音と共に、ソルの声が聞こえた。 「フェアル――、起きたー?」 「あ、はい! 起きてます」  慌てて返事をすると、カチャリと軽やかな音と共に扉が開いてサグとソルが入ってきた。 「おはようございます、サグ、ソル」 「おはようございます、フェアル。よく眠れましたか?」 「おはよ、フェアル。顔色良いな――。良かった」  そう言いながら、まだベッドの上に居る僕の元に近付いてテキパキと朝の準備をしてくれた。  サグの手伝って貰いながら着替えている間に、ソルがパパッとシーツを剥いで新しいシーツと交換している。そして扉の向こうに待機していたメイドに、交換後のシーツを渡していた。  それを見てちょっとだけ不思議に思った僕は、鏡の前に座っている僕の髪を梳いているサグを見上げた。 「何故メイドではなくソルがベッドを整えているんですか?」 「え? ああ……」  少し言い淀むサグの肩をソルが軽く叩き、代わりに答えた。 「万が一、魔力酔いとか、魔力枯渇とかなった場合さ、ちょっとメイドに交換して貰うのも差し障りがあるだろ」 「差し障り?」  僕が首を捻ると、ソルはパチンとウインをしてきた。 「ま、メイド達はそれが仕事だから気にはしねぇけどよ。お前は気にするだろ? アレやコレで汚れたシーツを知らねぇヤツに交換して貰うのって」 「アレやコレ……」  ソルの言葉を繰り返す。それは、つまり、この間のレグラス様の魔力酔いと僕の魔力枯渇による発情の……。  身体中に散っていた鬱血跡を思い出す。  アレやコレって、その……、精液的な……ヤツ……って事?  そう思い当たって、真っ赤になって俯いた僕を気の毒に思ったのか、サグがぽんぽんと頭を撫でてくれた。 「ソル、虐めるな。フェアル、理由はそれだけではないんですよ」 「……じゃあ、それ以外の理由って何ですか?」 「例えば、レグラス様がお仕事で魔力を多く使ってしまった時、無意識に相手の魔力を奪うことがないように、自衛できるものじゃないと、レグラス様のお部屋には入れないようになっているんです」  あながち嘘でもないらしく、僕がナイト公爵家に来る前から、レグラス様のお部屋にはメイドは立ち入れないようにしていたらしい。  その説明にほんの少しだけ胸を撫でおろしていると、ソルがぽんと僕の背中を押してきた。 「さ、フェアル。悪いが今日はあんまりゆっくりできねぇぞ。明日から学院編入だからな、今日中にやることが沢山あるんだ」  そう言われて、僕は慌てて立ち上がった。 「全く、ソルは……。フェアル? 忙しいのは確かですけど、そんなに慌てる必要はないんですよ。まずは朝食を摂りましょう」 「あ、はい。あの、ところで……」 「なに? なんか気になることあった?」  促されるままダイニングルームへ移動しようとして、僕は「そういえば」と思い出して二人に聞いてみることにした。 「レグラス様はどちらに行ったんですか?」

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